シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

SICK ボブ・フラナガンの生と死

johnfante2009-05-23

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カービー・ディック


カービー・ディックというアメリカのドキュメンタリー作家が気になっている。
というのは、先日生前のジャック・デリダをおさめた、エイミー・コフマンの共同監督のドキュメンタリー映画『Derrida』(2002)を見たからだ。
そして、カービー・ディックは『ボブ・フラナガンの生と死』(原題 Sick: The Life & Death of Bob Flanagan Supermasochist 1997)という映画を作っている。
実はボブ・フラナガンのことがずっと知りたくて仕方がなかった。



ナイン・インチ・ネイルズの「Happiness in Slavery」という曲のビデオ・クリップに登場する、ボブ・フラナガンの衝撃的なマゾ芸術が忘れられなかったからだ。
ボブは、ここで拷問マシーンによって、ワイヤーを手の皮膚に刺される。それから、マシーンハンドによって身体をえぐられて、内臓を切断されるのだが、苦悶の内にも喜びを覚えている表情。
最後は惨殺死体になった後にミンチにされるという趣向だが、この映像は放送禁止になってしまった(上の写真、下の動画)。
ボブはその他にも、ダンジグ(Danzig)の「It's Coming Down」のビデオ・クリップや、ゴッドフレッシュ(Godflesh)の「Crush my Soul」のビデオにも登場しているらしい。


http://www.dailymotion.com/video/x5kii_nine-inch-nails-happiness-in-slaver_music
「ハピネス・イン・スレイヴァリー(Happiness in Slavery)」のクリップ


ボブ・フラナガン


ボブ・フラナガンアメリカの詩人、作家、パフォーマンス・アーティスト、そして「スーパーマゾヒスト」として知られている。
生まれつき「嚢胞性線維症」という劣勢遺伝の難病を患っていた。
白人やユダヤ人に特に多い病気で、気管支症、肺炎、肝機能障害、肝硬変を繰り返し、30代までしか生きられない難病である。ボブ自身は肺に水が溜まり、常に呼吸困難であるような症状だった。
いわゆる死や痛みと隣り合わせのような生活のなかで、アブノーマルな性癖に目覚めたらしい。



『ボブ・フラナガンの生と死』のオープニング


ボブは1996年に43歳で病死してしまうのだが、その最後の1年間をドキュメントした映画が『ボブ・フラナガンの生と死』である。
ボブ・フラナガンは自分の身体の痛みを受け入れたとき、自身に痛みを与え、それを人前で表現するパーフォーマンスの芸術家となった。
酸素タンクがないと生きられないのだが、そんな彼の口にサディストの相方であるシェリー・ローズが大きなボールを銜えさせる。そして、有名な「板に釘づけにされるペニス」のシーン。
最晩年のボブがカリフォルニアの病院に入院し、そこで最愛のパートナーであるシェリー・ローズによって行われる極悪非道な行いは映画で確認してほしい。
もちろん、それはボブの懇願によって行われたことなのだろうけれど。ボブはこの難病を患いながら、最も長生きした患者だったそうだ。



ボブの自作の歌のパフォーマンス