シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

灰土警部の事件簿 人喰山

johnfante2014-04-07

アニメーション作家「にいやなおゆき」による『納涼アニメ電球烏賊祭』(93年・5分)を拝見した。全編を下記で見ることができるが、黒坂圭太の作品群と双頭をなす個人アニメーションの傑作だと思った。



『納涼アニメ電球烏賊祭』全編


主人公の部屋の電球が切れてしまい、電球をさがしていると、河でおこなわれる納涼祭に迷いこむ。そこでは花火が打ち上がり、それに合わせるかのように、巨大なイカが水面から空高くまいあがる。そして、人々はおいしそうにイカ焼きを食べているのだった。
アニメーションによるシネポエムであり、電球と納涼祭と巨大イカの出会いに面くらう。しかし、そこには濃厚で薄暗い性のにおいが漂っており、且つそれが暴発するかのようなカーニバレスクな世界が、何とも魅力的である。



『灰土警部の事件簿 人喰山』予告編


しかし何と言っても、にいやなおゆき15年ぶりの作品といわれる紙芝居アニメーションの大作、『灰土警部の事件簿 人喰山』(2008年・28分)には敵わないし、度肝を抜かれた。
連続殺人鬼を現場検証に連れて行く刑事たちが、「人喰山」という恐ろしい伝説を持つ山の秘密を垣間見てしまう…という物語設定がすばらしい。本当に柳田國男が集めた民話のなかにありそうな話である。類比でしか語れないのが情けないが、私は諸星大二郎のマンガや、後半は国宝の「餓鬼草紙」を思いだした。


貸本時代のマンガを思わせるような濃厚なスタイルの静止絵画を、多彩なカメラワークによって動かしていき、作者自身による語りが物語を引っぱっていくので、紙芝居アニメーションで間違いない。時おり実写のスモークが多重露光されたり、写真がコラージュされていたりして、撮影だけでも相当に凝っていて飽きさせない。
そして、行き着く果ては怪奇と幻想がまじった祭り=カーニバレスクな世界である。こちらは『いかまつり』よりも突き抜けていて、見ていて清々しい。いや、あらゆる禁忌が破られ、目も当てられぬほどグロテスクな状況が展開されるのだが、どういうわけか、笑いと食欲と性欲にいろどられた大団円には開放的な風が吹いている。
もしかしたら、ヒエロニムス・ボスや「餓鬼草紙」のように、作者がこのアニメーションを反面的に「悪いことをしたらこうなるよ」と道徳教育に使おうとしているのではないか、と思えるほど残酷な世界ではある。それが動画ではなく静止画によるアニメーションだから救われているようにも思えるし、それが「紙芝居」というフォーマットの伝統的な役割を踏襲しているようにも思えてくるのだ。



ふと、一緒にやっていた「映画芸術ダイアリー」で深田晃司監督が、この作品の批評を書いていたことを思いだした。下記に公開されているので、ぜひ一緒に読んで頂きたい。
http://eigageijutsu.com/article/124929684.html