シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

書評『フィルムメーカーズ』

johnfante2015-05-06

フィルムメーカーズ―個人映画のつくり方

フィルムメーカーズ―個人映画のつくり方


編著『フィルムメーカーズ 個人映画のつくり方』が、映画保存協会メールマガジン『メルマガFPS』Vol.116(発行日:2015/3/31)に掲載されました。データ保存の観点から、下記に転載いたします。



ショートショート書評】第70回 
   『フィルムメーカーズ―個人映画のつくり方』
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街の映画館で上映されているいわゆる「商業映画」に慣れた方には読みにく
い本かもしれない。
副題にもあるように、この本で取り上げる作品は「個人映画」と呼ばれるも
のであり、表現行為としての実験映像、前衛映像が主である。
だが、俳優やスタッフが大掛かりで作るドラマも映画であれば、こうした映
像表現もまた映画と呼ばれるのであり、本著を読むと映像、映画とは何と範
疇の広い表現だと読者は思うだろう。

本著は3章に分かれており、第1章は個人・実験映画の先駆者、スタン・ブ
ラッケージ、マヤ・デレンジョナス・メカスクリス・マルケルのインタ
ビューやエッセイ、第2章は松本俊夫、かながわのぶひろ、伊藤高志ら日本
の映像作家、第3章は各者による個人映画鑑賞記をまとめた。

特に第1章のインタビューは、個人映画・実験映画に触れてみるファースト・
ステップとしては取り掛かりやすい資料である。名前は聞いた事があるが、
どんな作家か知りたいという人はこの章だけでも読む価値が十分にある。
第2章は大手商業作品とは違った日本映画史の一面をたどることができる。
筆者が映像作家にインタビューする上で2点を心がけた。一つはどのような
生い立ちで、映画に対してどのような原体験があったのか、二つ目は制作す
る上でどのような作業工程や技術を使ったのか。
特に1960年、70年代のアンダーグラウンドカルチャーと、当時世間に
出回り始めた8ミリや16ミリカメラ(とフィルム)の発展がその歩みを共
にし、作家がカメラやフィルムを自分なりにアレンジして作品に反映させた
点は、今のデジタル映像でもこのような工夫ができるだろうかと考える。手
に触れられるメディアだからこそのアイデアがあるのだ。

こうした個人が作る映画は「アマチュア映画」とも呼ばれる。だが、ここで
の「アマチュア」とは未熟、素人という意味ではない。筆者は前言で、ラテ
ン語のamateurから派生したアマチュアという言葉の原義は「何かを愛する
者」だと述べている。
その通り、本著で取り上げた作家はみなレンズの先にある対象物に対してと
ても正直に自身の関心や愛着を表している。自分自身や観る者の視覚へ果敢
に挑む姿を丁寧に追った文章を読むと、商業映画とはまた違った高揚感を心
に覚える。

スマホやハンディカムで映像を記録し、それを編集してウェブにアップし、
世界中の人に見てもらうことが可能となった現在、映画は1人で作れる時代
となった。
今までの個人映画はプライベートの要素が比較的強かったが、今はパブリッ
クにマス配信している作家もいる。商業と個人の境界はこれからも曖昧にな
り、その内区別は無くなるかもしれない。
今後の映像の未来を考える時、本著を合わせて読めばより一層映像と個人と
の関係性を考えることができるだろう。(天野)