- 作者: 池内紀
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/08/18
- メディア: 新書
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右写真はオドラデクのイメージ絵
となりのカフカ
池内紀の『となりのカフカ』によれば、カフカは半官半民の「労働者傷害保険協会」に勤めるサラリーマンだった。
書記見習いとして就職したが、すぐ正規の書記官となり、係長・課長・部長ととんとん拍子に出世した。
書類作成に長けた有能な官吏だった。
現場で事故があり保険金申請の書類がくる。
疑問があると現地に出張し調査する保険調査員。
カフカの担当は、ボヘミア地方でも最も工業化が進んでいた北ボヘミア地区で、保険金授受と密接に絡む事故を惹き起こしやすい工業機械についての論文を書いたりもした。
そもそもカフカは自転車・オートバイが好きな機械好きでもあったらしい。
カフカが親戚のなかでもとりわけ親しみを寄せていた母方の叔父がバイク好きで、彼が持っていたバイクの製品名が「オドラデク号」と呼ばれていたという。
カフカの「家父の気がかり」(『断食芸人』池内紀訳や『カフカ短編集』に収録)には、オドラデク(Odradek)という不思議な生物が登場する。
ネットでも全文が翻訳で読める(タイトルは「家父長の心配」になっている)。
http://homepage3.nifty.com/atsushihamamura/atsushihamamura/KAFKA4.htm
オドラデク
ボルヘスは『幻獣辞典』でオドラテクを項目に取り入れて紹介しているが、説明のしようがなかったのか、このカフカによる小品をそのまま掲載している。
澁澤龍彦の『思考の紋章学』の「オドラデク」というエッセイによれば、ボルヘスはオドラデクを幻の「動物」のカテゴリーに入れており、反対にフランスの批評家のジャン・ポール・ヴェルベールは、これをはっきりと独楽の一種と断定しているという。
この間をとって、澁澤は「生きた物体(矛盾のようだが)と見ておきたい気持ちが強い」と言い、「物体なればこそ、この話は異様なリアリティを帯びてくる」とその物体性を強調している。
なぜか?
澁澤の文章を引用してみる。
《この完全な無意味性は、私たちのあらゆる先入見や固定観念から免れており、いわば私たちを途方に暮れさせるに十分なものであるだろう。
オドラデクの意味について考えをめぐした途端、私たちは漠々たる虚無の中にほっぽり出されるのだ。
オドラデクは、もとよりアレゴリーでもなければ、たぶんシンボルでもないだろう。
もしかしたら、これこそ物自体の顕現ではなかろうか、とも私は思う。
すなわち、現象の背後にある物自体が、カフカの思惟を通過することによって、突然、目に見える具体物となって顕現したかのような感じなのである。
だから、この物体は現象によっては何としても説明がつかず、また説明がつかないから一層刺激的なのだ。》