
宿命になった犯人との対決
その年の内は犯人を挙げられず、ハ・スンギョン刑事は華城市から本来の職場である隣町の水原市の警察に復帰した。翌1988年の正月のことだ。
華城事件を解決できなかったという不名誉は、一生消えない羞恥に思えた。
そんななか1988年1月4日、今度は水原市華西駅付近での畑で、積み上げていた稲束のなかから死体が発見された。あたかも犯人がハ・スンギョン刑事を追いかけてきたかのようだった。
7人目の犠牲者はキム・イスンさん(当時19歳)。
事件が発生したのは1987年12月24日のクリスマス・イブのことキム・イスンさんは、兄が買ってきたクリスマスケーキをひとりで食べてしまったことを母親に叱られ、「死んでも家には帰らない」といって家を飛び出した。娘の言葉は現実となってしまった。レイプされた上、ストッキングで絞殺されていた。
ハ・スンギョン刑事は犯人が華城の人間でなく、水原市の人間ではないかと考えた。最初の犠牲者以外の全員がバス停付近で犯人に襲われていた。
新たな容疑者のミョン・ハンヨンさん(当時21歳)が捜査線上に浮かび上がった。職にもつかず、昼間は寝て、夜になると外を徘徊している男だった。取調べで問い詰められると、いくつかの窃盗事件を認めたが、キム・イスンさんの殺害は認めなかった。窃盗罪で身柄が拘束された。尋問の末、自分が犯人だと自供するに至った。ひとりの刑事がキム・イスンさんの腕時計をどこにやったか聞くと、近くの野山に埋めたと答えたが、それは嘘であることが明らかになった。刑事たちはミョン・ハンヨンさんに暴行を加えた。容疑者は昏睡状態に陥り、病院に運ばれたが間もなく死亡した。
その結果、警察署長、捜査本部長、ハ・スンギョン刑事が職位懲戒の前の職位剥奪)の処分を受け、尋問を行った3人の刑事は拘束されて実刑を宣告された。容疑者は殺人事件では無実であることが判明した。
