シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

華城連続殺人事件 〜殺人の追憶〜 ③

johnfante2006-08-26

殺人の追憶

殺人の追憶

宿命になった犯人との対決


その年の内は犯人を挙げられず、ハ・スンギョン刑事は華城市から本来の職場である隣町の水原市の警察に復帰した。翌1988年の正月のことだ。
華城事件を解決できなかったという不名誉は、一生消えない羞恥に思えた。
そんななか1988年1月4日、今度は水原市華西駅付近での畑で、積み上げていた稲束のなかから死体が発見された。あたかも犯人がハ・スンギョン刑事を追いかけてきたかのようだった。
7人目の犠牲者はキム・イスンさん(当時19歳)。
事件が発生したのは1987年12月24日のクリスマス・イブのことキム・イスンさんは、兄が買ってきたクリスマスケーキをひとりで食べてしまったことを母親に叱られ、「死んでも家には帰らない」といって家を飛び出した。娘の言葉は現実となってしまった。レイプされた上、ストッキングで絞殺されていた。
 ハ・スンギョン刑事は犯人が華城の人間でなく、水原市の人間ではないかと考えた。最初の犠牲者以外の全員がバス停付近で犯人に襲われていた。

 新たな容疑者のミョン・ハンヨンさん(当時21歳)が捜査線上に浮かび上がった。職にもつかず、昼間は寝て、夜になると外を徘徊している男だった。取調べで問い詰められると、いくつかの窃盗事件を認めたが、キム・イスンさんの殺害は認めなかった。窃盗罪で身柄が拘束された。尋問の末、自分が犯人だと自供するに至った。ひとりの刑事がキム・イスンさんの腕時計をどこにやったか聞くと、近くの野山に埋めたと答えたが、それは嘘であることが明らかになった。刑事たちはミョン・ハンヨンさんに暴行を加えた。容疑者は昏睡状態に陥り、病院に運ばれたが間もなく死亡した。
 その結果、警察署長、捜査本部長、ハ・スンギョン刑事が職位懲戒の前の職位剥奪)の処分を受け、尋問を行った3人の刑事は拘束されて実刑を宣告された。容疑者は殺人事件では無実であることが判明した。


 ハ・スンギョン刑事が復職したあとの1988年9月7日夜8時40分ごろ、アン・ヒスンさん(当時54歳)が水原でバスに乗って失踪した。8人目の犠牲者だった。台安邑から29キロも離れた發安であったため模倣犯罪の可能性もあった。ハ・スンギョン刑事は被害者の両手を縛りつけたブラウスの結び目を見、膣内に詰め込まれた9個の桃のかけらを見て、同一犯の犯行だと確信した。
 ハ・スンギョン刑事は草むらで人が通ったような痕跡を見つけ、400メートルほど歩き、水原と發安を結ぶ地方道路にぶつかった。ズボンと靴は水浸しになった。犯人が歩いた道を歩いたのだ。市外バスターミナルを訪ねて、ガン・ウォンテさんというバス運転士に会った。
 その夜、ガンさんは男が一番前の席に座り、ボンネットに濡れた足を置いたので注意した。そのあと、男はガンさんに煙草の火を借りたらしい。
彼だけでなく、バスガイドのオムさん(女性)も犯人の顔をはっきり覚えていた。25〜27歳くらいで、168センチ前後。猫背で、スポーツ刈り。
捜査チームは二人の証言をもとに、犯人の似顔絵を作成し、50万部を配布。ビデオカメラで撮影した住民登録証の写真を徹底的に洗った。


 そんななか捜査チームにいたパク警査が、会議の途中で意識を失った。脳出血と過労が原因だった。結局、体の半分が麻痺してしまい、後に警察を退官することになった。
 警察は藁をつかむくらい必死だった。ある50代半ばの占い師が捜査本部に電話をしてきて、気の陰陽の調和で犯人の居場所を特定したというのだ。
「低い丘の向こうにトタンぶきの家がある。その家には30代の男が暮らしているのだが、片腕が使えない。それが犯人です」と言った。
 キム刑事は捜査の結果、占い師が言っていた場所を見つけた。
6人目の犠牲者のパク・ウンスクさんの事件現場の近くだった。間違いなく古いトタンぶきの屋根だった。
男がひとりで暮らしていて、左腕は手首から下が使えなかった。しかし、精神状態も正常ではなく、身動きもままならず、どう見ても犯行をおかせる人物ではなかった。

2件の模倣犯


 8人目の事件の1週間後、1988年9月16日の深夜2時。
6人目の事件の近く、台安邑で幼い少女パク・ソンヒちゃんが自分の部屋で殺されているのが見つかった。
しかし、手足を縛られておらず、ガードルやパンティも顔にかぶされていなかった。
現場で発見した陰毛を証拠に、村のチンピラへの聞き込みなどから、耕運機修理センターの従業員ユン・ソンチョル(当時22歳)が容疑者となった。
捜査過程でDNA分析技法を国立科学捜査研究所が導入した最初の事例となった。パク・ソンヒちゃんの部屋で見つかった陰毛と、ユン・ソンチョルのDNAが一致した。


その4日後の9月20日のこと。
華城事件の真犯人を名乗る男が女子高生をレイプしたが、幸いなことに被害者が生きているとの報告を受けて、ハ・スンギョン刑事は發安の派出所へ向かった。
キム・ソンヒさん(当時17歳)は毎日村から800メートルある細道を歩いて地方道路に出て、バスに乗って水原市へ向かっていた。
日曜日の朝5時ごろ、ふだんより1時間早くバス停に行き、バスを待っていた。そのとき、山の方から30代半ばに見える男が現れてナイフで脅し、山へと連れて行きレイプをした。
ことを終えた男はナイフをひけらかしながら言った。
「テレビや新聞で騒いでいる連続殺人の真犯人が俺なんだ。でも、お前はまだ若いから生かしてやる」
 男はキム・ソンヒさんの学校と名前を聞き出し、警察に知らせたら殺しにくると脅迫した。
1時間後に山を下りろと言い残して、男はその場を去った。
キム・ソンヒさんは犯人に言われたとおりにし、家に帰って両親に話し、派出所に来た。


証言によると、犯人は身長170センチほど、太った体型の丸顔で、服装は工事現場で働いているようで、言葉は京畿道なまりだった。
明らかに連続殺人犯とは別人だった。
警察は1か月後に、バス停の前を毎日通過していた建設現場のワゴン車を見つけた。そのなかにチェ・ソギョル(当時35歳)はいた。チェ・ソギョルを連行し、キム・ソンヒさんに外からガラス越しに見てもらった。両親に抱き寄せられていた彼女の顔は蒼白で、恐怖に怯えたまま首を縦に振った。
最終的に容疑者は犯行を認め、これら2件の模倣犯罪は解決した。 


④へつづく