悪魔め!
この世に存在するすべての呪いをきさまに浴びせても私の心は晴れない。
常にしこりが残る。いくら呪ってもこの怒りは静まらない。
きさまを罵りながら呪ってもふと被害者の顔を思い浮かんだときは、頼むから殺人をやめてくれと、つぶやくときもある。
しかし、きさまは殺人をやめない。きさまはむしろ、より残酷になった。
ああ、この怒り! この怒りがおさまらない。
きさまは私が捕らえる。必ず捕らえてみせる。
〜「殺人犯へ送る手紙」河昇均(ハ・スンギョン)(華城事件の現場捜査チーム長)〜
1人目、2人目の犠牲者
韓国の首都、ソウルから南に約50キロ、電車で一時間。京畿(キョンギ)道・華城(ファソン)市の田舎町でそれらの事件は起こった。
稲刈りの終わった牧歌的な田園風景のなかで。
今まで(2004年現在)華城連続殺人事件に投入された人員は、約34万人の捜査員を含め、のべ200万人に達する。
2万人を直接取り調べ、4万人の指紋を照合し、580人のDNA鑑定もした。韓国の犯罪史上、類を見ない規模である。
1986年9月15日、早朝6時20分頃、イ・ワニさん(当時71歳)の殺害事件は起こった。
発生した現場は華城市台安邑安寧里の道端にある草むら。遺体は下半身だけ服を脱がされた状態だった。
イ・ワニさんは前日、家の畑で栽培した大根数束と唐辛子を水原(スウオン)市(隣町)内にある市場で売ったあと、家から1時間ほど離れた場所にある娘の家に寄った。
そこが事件現場となる台安邑安寧里であった。
娘の家で一夜過ごした老婆は、家の畑の仕事が心配で、日も昇りきっていない早朝に娘の家を出て、そのあと失踪し、4日後に町の住民によって遺体のまま発見された。
娘の家のすぐ近くの人家のない路地だった。犯人は歩いていたイ・ワニさんを草むらに引きずり込み、服を脱がせて犯行に及んだ。
そして、抵抗する被害者の首を絞めて殺し、所持品をあさり、金を持って逃げた。
被害者の下半身だけ裸にして、脚をX字に交差させたあと、腹部に密着させた点が特徴(書籍に発見当時の生々しい写真あり)といえる。
検死の結果、精液の反応は現れなかったが、状況から性の犯罪が行われた可能性を考えずにいられない。
被害者が吐き出した胃腸の内容物が草についていた。