アメリカン・ハードコア
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2006/05/26
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右写真は撮影中のダミアーノ監督
「インサイド・ディープ・スロート」
70年代を黄金期とするアメリカのハードコア・ポルノが、ふたたび脚光を浴びている。
別称のXXX(スリーエックス)とは、X指定(成人向け)を強調した表示だが、うらはらに『ディープ・スロート』などハードコア・ポルノの作風は、どれもコメディ乗りばかりだ。
ソフト・ロックのサントラや、サイケで安っぽく意外性に富んだ映像は、モンド的として日本でもたびたび再評価されている。
しかし、このほど注目されているのは、そのファッション性ではなく、「ハードコア・ポルノとは何だったのか」という社会現象としての側面である。
「インサイド・ディープ・スロート」の予告編
6日間で撮影された低予算ポルノ『ディープ・スロート』は、不感症の女性が医者に診てもらうと、クリトリスが喉にあることが判明し、オーラル・セックスをするようになるという筋だ。
ダミアーノ監督も、女優の得意技を見せるためにつくった駄作だと認めている。
だが、この脱力系のポルノ映画が大ヒットして社会現象になり、人々の性に関する意識を変革し、アメリカの憲法を変える契機にまでなったのはなぜなのか。
その疑問に答えてくれるのが、『インサイド・ディープ・スロート』という新作ドキュメンタリーである。
「ディープ・スロート」の反響
映画は関係者へのインタビューと過去の映像をつなぎ、『ディープ・スロート』のヒットを勘違いの連鎖が生んだことが浮かびあがる。
たしかに映画は60年代後半の性解放の気分を受けついでいるが、フェラチオをする女性の積極性や、性の満足感を求める女性像が、70年代のフェミニズム運動とつながったのは何か変だ。
この映画のヒットを受けて保守層は反発し、政府は裁判を起こしたが、おかげでメディアで大々的に取りあげられ、より多くの観客が劇場に押しよせた。
政府の取りしまりが、いつからか表現の自由に対する弾圧という文脈にすりかわり、有名俳優や作家がこの映画を擁護することにもなった。
関係者もから騒ぎに巻きこまれる。
本名で出演したリンダ・ラブレイスは、大統領候補に担ぎ上げられるものの、その後は反ポルノ運動に転じ、最後は交通事故で亡くなる。
ハードコア・ポルノを支えた作り手は、例外なくハリウッドを夢見た人たちで、多くが悲劇的な最後を迎えている。業界の内幕を描く『ブギー・ナイツ』は皿洗いからポルノスターに上りつめるでかマラ青年の話だが、実在のモデルはジョン・ホームズという俳優である。
『ワンダーランド』は黄金期の後のホームズが、麻薬とギャングと、ハリウッド界隈で起きた4人の惨殺事件に巻きこまれる姿が描かれ、彼自身は最後にエイズで亡くなっている。
対照的に、いまだに活躍しているのはユダヤ系のロン・ジャーミーで、ポルノ界で最も成功した彼も巨大な一物の持ち主である。
その半生を追ったドキュメンタリー『ポルノ・スター ロン・ジャーミーの伝説』が物悲しいのは、彼でさえも『悪魔の毒々モンスター/新世紀絶叫バトル』のようなC級映画の、それも端役に出演しようと努力している姿である。
一見、派手で華やかに見えるハードコア・ポルノの業界だが、30年後に振り返れば、ハリウッドが抱える膿と病理をはらんだ鏡のような存在であったことがわかるのだ。
関連作品
『ディープ・スロート』(72年)
出演/リンダ・ラブレース、ハリー・リームズ
性生活に満足できないリンダは医師の診察を受け、喉の奥にクリトリスがあることが判明。
一本の低予算ポルノ映画が、六百億円以上の興行収入を挙げた謎。
マフィアが裏で関係したり裁判沙汰になったり、映画自体より逸話の方がおもしろい?
『ミス・ジョーンズの背徳 』(72年)
監督/ジェラルド・ダミアーノ 出演/ ジョージナ・スペルヴィン
『ディープ・スロート』の監督、ジェラルド・ダミアーノがお得意のサイケ調の映像で魅せるハードコアの代表作。処女のまま自殺した女が甦り、現世で快楽の限りを尽くす!
『マリー・フォルサ in 若草の萌える時』(77年)
出演/マリー・フォルサ、ハリー・リームス
80年代半ばにアルコール中毒になり、自己破産をした後、ユタ州で不動産のセールスマンとして第二の人生を歩んでいる元ポルノスター、ハリー・リームスの黄金期の1本。
『ラリー・フリント』(97年)
監督/ミロシュ・フォアマン 出演/ウディ・ハレルソン、コートニー・ラブ
70年代は映画界に『ディープ・スロート』がある一方で、紙媒体では過激なポルノ雑誌「ハスラー」があった。それを創刊したラリー・フリントの人騒がせな半生を映画化
キング・オブ・ポルノ [DVD]
『キング・オブ・ポルノ』(00年)
監督/エミリオ・エステヴェス 出演/チャーリー・シーンほか
映画『グリーンドア』を大ヒットさせ、70年代アメリカのハードコア・ポルノの中心的存在になった映画監督、ミッチェル兄弟の波乱万丈ながらどこか投げやりな人生を描く。
『サディスティック&マゾヒスティック』(01年)
出演/小沼勝、荒井晴彦
黒沢清や相米慎二などピンクやポルノ映画でデビューした監督は少なくない。中田秀夫もその一人で、本作は映画の撮影現場におけるSMな人間関係に焦点を当てた異色作。
ワンダーランド [DVD]
『ワンダーランド ポルノスターの殺意』(05年)
主演/ヴァル・キルマー、エリック・ボゴシアン
伝説のポルノスターのジョン・ホームズが巻き込まれた、ワンダーランド通りで起きた惨殺事件を描く。裏でギャングや麻薬取引が関係していたハリウッドの暗部が描かれる。
ディープ・スロートの日々―リンダ・ラブレイス自伝 (1980年)
初出:「週刊SPA!」