SFコメディ
『銀河ヒッチハイク・ガイド』
SFコメディの大作『銀河ヒッチハイク・ガイド』がハリウッドの資本を得て遂に映画化された。
元は70年代にカルト的な人気を誇ったイギリスのテレビ番組だ。
英米でSFといえば映画よりも、『スター・トレック』などのテレビ番組をお茶の間でじっくり見る習慣がなじみだが、特にイギリスではSFコメディが一大ジャンルをなしてきた。
60年代に英国喜劇の伝統とSFが融合した『ドクター・フー』が社会現象化した。
主人公の博士が新しい肉体に変身できるという設定なので、都合の良いことに顔と俳優が数年ごとに変わり、マンネリ化を未然に防いで26年に渡る長寿番組となった。
生まじめなアメリカの視聴者はそのセットや衣装の極端な安っぽさに肝を抜かれたという。
イギリスの製作者は未来社会の映像化に熱心ではなく、視聴者が笑えればいい位にしか考えていなかった。
同時期に大作化が進んだアメリカのSF映画に対抗するために、低予算を逆手にとったコメディの枠内で試行錯誤がなされ、ここからさまざまな才能が生まれてきた。
- 作者: ダグラス・アダムス,安原和見
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/09/03
- メディア: 文庫
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『ドクター・フー』の脚本家でモンティ・パイソンにも協力したダグラス・アダムスがその一人で、『銀河ヒッチハイク・ガイド』は彼の創作だ。
銀河バイパス建設のためにあっさり破壊された地球から冴えない男がヒッチハイクで逃げのび、ガイドブックを片手に宇宙放浪をするという人を食った設定が評判になった。
左脳的なウィットであらゆる権威、英知、官僚主義、テクノロジーを陽気に茶化す態度はSFコメディの王道を行っている。
元来イギリスは根強い階級社会なので、社会的に弱い立場の人は風刺や批判をこめたパロディ・ギャグを得意としてきた。
『銀河〜』ではその矛先は大資本を背景にしたハリウッドのSF映画にも向けられているが、皮肉なことに彼らの資本力抜きでは映画の完成もなかった。
決定力不足に悩むSFコメディの低迷を『銀河〜』や、映画化が進行中の『宇宙船レッド・ドワーフ号』あたりが払拭してくれることを願う。
その他のSFコメディ
『銀河ヒッチハイク・ガイド』(TV版)
知能指数が高すぎて鬱が常態のロボット、宇宙の本質と42という数字の謎、地球の創生とハツカネズミをめぐる秘密など、哲学的且つスラップスティックな世界観で絶大的な人気を誇る。
最初はラジオドラマとして製作されてブレイクし、テレビ化され、小説版は世界で1500万部を売り上げた。
BBCのテレビシリーズ全6話がDVDでリリース。
- 作者: ジャスティン・リチャーズ,安原和見,花田知恵
- 出版社/メーカー: キネマ旬報 社
- 発売日: 2006/09/01
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脚本/テリー・ネイション他
イギリスで26年ぶりに新シリーズが復活したマンモス番組。
日本ではNHKで放映された。
『時空大血闘!』など5冊がハヤカワ文庫で刊行済。
DVD化が待たれる
『宇宙船レッドドワーフ号』(’88〜’99年)
主演/クレイグ・チャールズ
人類は絶滅、乗組員は全員死亡。
生き残った三人組が壊れゆく宇宙船で銀河を漂いながら、
偉大なSF的テーマのばかげたパロディと遭遇していくアナーキーなコメディ番組
『フレッシュ・ゴードン ヘア解禁ノーカット完全版 』(74年)
監督/マイケル・ベンヴェニスト他
地球に降り注ぐポルノ光線で欲情の虜となる人々。
フレッシュはマスカキ博士のポコチンロケットに乗って宇宙に飛び立つ!
『フラッシュ・ゴードン』のポルノ版パロディ。
『プラン9・フロム・アウタースペース』(’59年)
監督/エド・ウッド DVD/『エド・ウッド・コレクション』に収録
米大統領に面会を断られ、怒った宇宙人が死者を生き返らせる光線で埋葬された人を次々とゾンビ化する。
80年代に史上最低の映画に選ばれ、監督の再認知につながった
初出 : 週刊SPA!