シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

TOKYO JOE マフィアを売った男 ①

johnfante2008-11-28

モンタナ・ジョー―マフィアのドンになった日本人

モンタナ・ジョー―マフィアのドンになった日本人


『TOKYO JOE/マフィアを売った男』が、2008年12月13日より全国公開されます。
映画はアメリカ犯罪史上、唯一の日系人のマフィア、ケン・エトーの生涯を追ったドキュメンタリーです。
上は、TOKYO JOE=モンタナ・ジョーに関するノンフィクション・ブックです。
ロバート・デニーロ出演で、ハリウッドで映画化する予定もあるようです。

日系移民の子


モンタナ・ジョー(あるいは東京ジョー)は、本名を衛藤健(えとうけん)という。
父・衛藤衛(まもる)の長男として1919年、カリフォルニア州ストックトンに生まれた。
日系一世の父・衛藤衛が渡米したのは、在米日本人移民の実態調査のためであり、日本政府から正式に調査員として派遣されたのであった。
1917年(大正6)のことで、当時、米国への移民が急増しているさなかの出来事であった。


渡米した者の多くは手続きを移民会社に一任していたのだったが、単に送り届けられただけで、渡った先で途方に暮れるばかりだった。
しかも、言葉が通じない。家族を日本に残してきた単身赴任か、独身男性ばかりで、殆どが借金をしているので帰ろうにも帰れない。そんな彼らの慰めは、酒と女と博打しかなかった。


国を出るときに持ってきた持参金だけでなく、毎日の僅かな賃金も賭博につぎ込んだ。
仮に勝っても、賭場を出ると女が待っており、近くには宿場もあった。絶対に儲からないシステムだったのに、のめり込んでいったのである。
日本政府は、彼らを救えなかった。「彼らを救うのは、神の愛しかない」そう誓った衛は、妻と幼い長女を呼び寄せ、教会を開く。
そして、1919年、長男・健が生まれたのであった。


牧師の息子


健は小さい頃から働き者で几帳面だった。反面短気なところもあり、近所で喧嘩も絶えず、理由を聞いても絶対に言わないという口の堅さも持っていた。兄弟喧嘩も絶えなかった。
たまりかねた父・衛はある時、「家を出て行け!」と叱ったのだが、これは衛を後悔させることとなった。
日本人の子供なら、しつけの一環で家の外に追い出しても帰ってくるものだが、健は帰ってこなかった。
米国生まれの日系二世である健は、心はもはや、アメリカ人だったからである。



『TOKYO JOE/マフィアを売った男』予告編


健は「ジョー」と名乗り、季節労働者として各地を転々とし、合間に覚えたのが、博打であった。
僅かな賃金を博打につぎ込み、全てを巻き上げられるという惨めな生活の繰り返し。
当時14歳の彼が悟ったのは、「博打は絶対に勝たねばならない」ということだった。
それには、カモられる方ではなく、場を仕切ってカモる方(ディーラー)でなければならない。
ジョーはイカサマ技の習得に命を削り、移動手段である長距離列車の中では、長旅で疲れた旅行客をカモにしていた。


ちょうどこの頃、後年共にファミリーを形成することとなる、同じような境遇の日系人達と出会っている。
ほぼ同年代の彼らもまた、ジョーと共にイカサマ賭博の技術向上に努めていった。
中でも、2つ年上のエディ上原という男は、ジョーと気が合った。
エディの故郷であるモンタナ州でジョーは大金をせしめたこともあり、これが後年、「モンタナ・ジョー」と名乗る由来であるとも言われる。


戦争を越えて


1941年に勃発した太平洋戦争は最大の打撃であった。
アメリカ市民権を持っていようがいまいが、全ての日系人強制収容所に収容されたのである。
ジョーと彼の仲間達も例外ではなかった。
これは、ジョーら日系二世にとっては、新たな悲劇でもあった。
日系一世らは、生まれ育ちが日本の、血も心も日本人なのだが、二世らは、心は米国人なのだ。
市民権も持ち、全く米国人のつもりで生活していたのが、一夜にして「日本人」として米国社会から引き裂かれ、収容所送りになったのだ。



そんな彼ら二世達が、米国への忠誠をあらわにするために採った手段は、米国兵として戦闘に参加することだった。
ジョーもこの二世部隊に参加し、エディと同じ部隊に配属になった。
もちろん、収容所から出たかったのが本音である。だが、参加したからには戦争に行かねばならない。
彼らが送りこまれたイタリア戦線は激戦を極めるものだったが、奇跡的に二人とも無事に帰還した。ジョーとエディの絆はこの時、かけがいのないものとなった。
帰還後、彼らはニューヨークに腰を落ち着けることになった。



『TOKYO JOE/マフィアを売った男』
監督:小栗謙一
原作:エレイン・スミス
撮影:アビ・カストリアーノ、K.P.マロン
音楽:ハズマット・モディーン
製作国:2008年日本映画
上映時間:1時間33分
公式サイト http://www.cinemacafe.net/official/tokyo-joe/

参照ページ http://www.root-pictures.com/legend/montana_joe.html