シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

「闇の絵巻」 梶井基次郎 ①

johnfante2009-06-23

梶井基次郎全集 全1巻 (ちくま文庫)

梶井基次郎全集 全1巻 (ちくま文庫)

「闇の絵巻」


梶井基次郎に伊豆の湯ヶ島を舞台にした「闇の絵巻」という短編小説がある。
主人公の「私」は「下流にあった一軒の旅館から、上流の旅館まで帰って来る」間に、山深い闇の道を歩いてくる。
今でこそ温泉街として知られているが、昔の湯ヶ島には旅館が4、5軒くらいしかなかった。
梶井基次郎は、落合楼に逗留していた川端康成を訪ねていたという。
他にも梶井の遺稿「温泉」という短文を読むと、真夜中に温泉浴場へ通っていたことがわかる。


宇野千代が書いた「梶井基次郎の笑ひ声」(ちくま文庫梶井基次郎全集』所収)では、これらとは違った見解が述べられている。
それよれば、湯ヶ島時代、梶井は27歳、宇野は29歳の若さだった。
梶井は宇野のいる湯本館へ、夜の食後の散歩と称して、毎晩のように通っていたという。
梶井はまわりの人に決して自分の感情を見せることがなく、病気のことも隠していた。


存在の不安?


梶井基次郎には、時に山を歩いて、数日間姿を消したりする奇行があったという。
その後、宇野千代が亡くなる直前の梶井に会ったとき、梶井は「もし死ぬようなことがあったら、僕の手を握ってくれますか」と宇野に言ったともいう。
これらのことから類推すれば、「闇の絵巻」はよく存在の不安と結びつけられるのだが、むしろこの短編を恋する者の苦悩の彷徨として読むことが可能なのではないか。



梶井基次郎の「檸檬」の舞台となった京都の「八百卯」。
フルーツパーラーを経営していたが、2009年現在では閉店してしまっている。