シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

『ザ・コーヴ』横浜公開迫る

johnfante2010-06-16

いよいよ7月上旬に、太地町のイルカ漁を描いた『ザ・コーヴ』が横浜ニューテアトルにて上映される。
東京都内の上映館が、右翼団体の抗議行動を受ける前に、抗議予告だけで上映中止を決めてしまったが、何とか横浜だけは頑張ってほしいものだ。


上映館前の街宣動画




下は知人が撮影した映像


知人に興味深い動画を紹介してもらったので、この場でシェアしたい。
6月12日(土)に横浜ニューテアトル前にて行われた、主権回復を目指す会による上映阻止の街宣。
そして、右翼の抗議行動に反対する人々、マスコミもかなり集まっている。
動画の前半に、一水会最高顧問の鈴木邦男氏が「街宣ではなく、堂々と議論を」と呼びかける一幕がある。
鈴木邦男、頑張っている。映画館と上映阻止に反対する人たちを応援しなくてはならない。


抗議行動について考える



私が考えさせられるのは、次の2点である。
新右翼として出発した一水会の鈴木さんが、市民的なフェアな姿勢を取るとき、さらに新しいネット右翼を含んだ極端な民族主義的な団体行動を押えきれられないだろう、ということ。
これは新右翼のなかの、更なる新しい世代交代が進んでいることを象徴しているのか。


もう1つは、街宣を聞いていると、映画が公開されていないから、抗議行動をしている右派の人たちは、多くの人が『ザ・コーヴ』をまだ観ていない様子だということ。
映画を観てもいないのに抗議をするのは、いかがなものか。
海外版のDVDがネットショップで買えるので、ぜひ観てから抗議行動をしてほしいものだ。
映画を観たら、あのドキュメンタリー映画のために街宣するのが如何にバカらしいか、自ずと分かるだろう。
確かに「太地町の入り江(コーヴ)にて、どんな秘密が行われているのか」と見せていく映画のスリリングさはあるが、それは興味本位に走った演出であり、政治信条を賭けるほどの何かではない。


ザ・コーヴ』について


短くいうと、『ザ・コーヴ』は数億円をかけており、構成的にも完成度が高く、ある種のエンタテインメントに仕上がっている。
だが、米アカデミー賞のドキュメンタリー賞を受賞するほどの作品ではないと思う。
映画のラストシーンだって、残酷でショッキングではあるが、みんなが知っている範囲のことで目新しさはない。



しかし、最近のドキュメンタリー映画や映画祭は、ある種の政治的な主張をする場になっており、それは客観中立性という神話を解体して、視点の偏向をもたらしているが、これはこれで健全なことである。
要するに、1本の映画を巡って立場の違う人たちが対立し、意見をぶつけ合うことは良いことだ。
だから、上映阻止運動に走るのではなく、むしろ右派の人たちは「この映画を観ろ!」というべきなのだが、右派の抗議運動が良い宣伝になっているという意味では、これはこれでいいのかもしれない。


ザ・コーヴ』を巡って盛り上がって来ているので、横浜ニューテアトルを応援するために、多くの人が映画館へ足を運んでほしい。