シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

『ザ・コーヴ』 ルイ・シホヨス

johnfante2010-05-02


ザ・コーヴ』予告編

イルカ漁告発映画


年に1回、9月に和歌山県太地町で行われるイルカ漁を批判的に撮った、ルイ・シホヨス監督のドキュメンタリー『ザ・コーヴ』を見た。
この映画は、2010年3月の米アカデミー賞でドキュメンタリー賞を受賞したが、国内の上映が危ぶまれている。
配給会社に「反日映画」として右翼団体が押しかけたり、許可なく撮影された漁師らが「肖像権」の問題で、弁護士を通じて訴えているからだ。
確かに隠し撮りをしたり、漁師をヤクザのように描いたり、何かと問題はあるのだが、是非公開してほしい映画である。
日本では、顔にモザイクをかけ、字幕で説明を施して、上映される予定だという。
海外では、ノーカット版がDVD化されているので、待ちきれない人はそちらで見ることもできる。


渋谷の「のんべい横丁」にある或る店で、イルカ肉のミリン干しを食べたことがある。
ミリン干しにしていても、まだ臭いが臭くて、人肉のように脂が次から次へと出てくる。
店のマスターが西伊豆出身の人で、紀伊半島と同様、イルカ漁とイルカを食べる食習慣があるのだという。
個人的にはイルカも鯨も、もう二度と食べなくていいものだが、あの癖がたまらないという人を責める気もない。


イルカを食べるべきか否か


先住民アイヌの人たちや、江戸時代から、イルカ漁は土地によって伝統的な漁法なのである。
とはいえ、『ザ・コーヴ』にあるように、イルカショーを見せる反面、店でイルカ肉を売っているというのも変なものだ
「あんなにカワイイ生き物を食べるなんて野蛮だ」という批判には、はっきり言って賛成できない。
だが、イルカを捕獲して水族館に売りさばくだけならともかく、なんで皆殺しにする必要があるのか、不可解にも思う。



ザ・コーヴ』を扱ったニュース番組の特集


しかし、映画の魅力はそこではなく、あの太地町の「入り江」(Cove)で何が起きているのか。
その謎を究明するために、数億円かけたという贅沢な隠しカメラ、空中撮影などを駆使して、スペクタクルとしてそれを見せていく手法である。
興味深いのは、ドキュメンタリーとしての客観性や中立性を捨て去って、ある強いメッセージを発するために映画が作られていることである。
リック・オバリー氏の腹を括った活動家ぶりにも感心する。
そして、確かに血で真っ赤に海が染まる、そのイルカの虐殺シーンはショッキングであり、反対運動へと人々を駆り立てる映像の力を持っている。
虐殺シーンのイルカたちのキューキューいう鳴き声は、以前イルカの歌の癒し系CDを持っていたので、ちょっと聞いていられなかった。


日本政府はイルカやクジラを或る程度捕獲しないと、生態系が壊れ、魚の量がガクンと減ってしまうと主張する。
確かに、そういう面もあるのだろう。
イルカ漁や捕鯨に賛成する人も、反対する人も、とりあえず『ザ・コーヴ』を見てみるといい。
イルカだから残酷に見えるが、私たちの食卓にのぼるほとんどの食事が、人間による生き物の虐殺の末にテーブルまでたどり着いているのだ。
いろいろなことを話し合うための、きっかけにするといい。
反日映画」だ、「プライベートを守る権利」だ、と都合のいい権利を振りかざして、上映禁止運動をするのは言語道断である。