愛と経済のロゴス
「愛と経済のロゴス カイエ・ソバージュ<3>」 中沢新一 著
宗教学者や思想家としてだけではなく、第一級の語り手としても知られる中沢新一先生の講義に出てみよう。
「聞き手との間の駆け引き、関心を寄せるための演技」がともなうその講義は、さながらライブ・パフォーマンスのようだ。
学生はおろか部外者までもが押しかけるという、そんな人気講座を活字化したのが「カイエ・ソバージュ」のシリーズ。
各巻が読みきりなので、興味のありそうな巻から気軽に手に取れるのもうれしい。
3冊目にあたる本書ではズバリ「経済」がテーマ。
とはいっても、文字通りの経済学のことではない。
バレンタインデーに備えて女の子がチョコレートを購入するとき、店員は値札を外し包装をし直すことによって商品としての痕跡を消す。
贈りものの価値(贈与)は、商品の値段(交換)ではなく、人間関係における意味や感情によって決まるからだ。
同様にアメリカ原住民のポトラッチという祭りでは、亡き首長のために、新しい首長が貴重品を海に投げ込む(純粋贈与)慣習がある。
そこでは気前のよさが首長の威信を高め、それが部族全体の霊力の活性化をも意味した。
太古の世界では、他人に贈りものをすること(贈与)や、神や自然に感謝し捧げものをすること(純粋贈与)が、重要な経済活動だと考えられていた。
その後、貨幣が発明されて資本主義が生まれていくまでを、著者は北欧における聖杯伝説やクエーカー教徒の集会などの豊富な事例をつかって楽しく読みといていく。
が、そこから導きだされてくる答えはシビアなものだ。
ヨーロッパから生まれた資本主義という商品経済(交換)ばかりが発達してしまい「交換」「贈与」「純粋贈与」の3つのバランスが崩れ、現代では何から何までが経済の影響下にあるような状態になった。
かつてないほど豊かな時代なのに、実感としてあまり幸福でも豊かでもない社会。
だからこそ、神話的な知の力を借り、資本主義の彼方に新しい社会形態や経済学を打ち立てるべきだと中沢先生は提案するのだ。
初出 : Amazon.co.jp