アンディ・ウォーホルの悪趣味シネマ

johnfante2006-09-17

『アンディ・ウォーホル／コンプリート・ピクチャーズ』（02年）
出演／ミック・ジャガー、サルヴァドール・ダリほか　ＤＶＤ／コロムビア
ウォーホルの死後に出てきた豊富な資料を元に、関係者・家族・友人インタビューでその生涯をあぶりだす。

ウォーホルの映画とは？

　アンディ・ウォーホルの映画が相次いでＤＶＤ化されている。
　彼はポップアートの芸術家で、マリリン・モンローや毛沢東の顔をシルクスクリーン印刷した作品で有名だが、映画との関係も浅くない。
　ただし本人は撮影に参加せず、監督と脚本は弟子のポール・モリセイに任せていた。
　でも、クレジットには必ず「ウォーホル・プレゼンツ」と入れた。
　まさか名貸しのタレント稼業ではあるまい。ウォーホルの映画とは一体何だったのか？

　60年代に彼は自分のアトリエをファクトリーと名づけ、頭の変なジャンキーやヒッピー、性倒錯者など電波系な人々のたまり場にしていた。
　ウォーホルは彼らを逆説的にスーパースターと呼び、小遣い銭をあたえて出演者に仕立てた。
　ここから伝説的なドラッグクィーンのキャンディ・ダーリングやホリー・クッドローン、狂気の美女のニコやイーディら有象無象が一夜でスターとなった。
　『フレッシュ』『トラッシュ』は電波系スターが自分の名で登場し、カメラの前で普段通りに麻薬を打ち、痴話喧嘩をし、セックスにふけるクズ映画。
　登場人物には共感できず、話もいやな方向へと予想を裏切りつづけ、作り手の悪趣味に圧倒されるばかりだ。

悪趣味映画の先駆的存在

　でも考えてみれば、そもそもウォーホルを有名にしたポップアートとは、俗悪なデザインを高尚な美術の世界に持ちこんでセンセーションを起こすことだった。
　映画スターのプロマイド、洗剤箱、スープ缶は芸術的に悪趣味だからこそキッチュなのだ。
　きっと映画でも同じことをやりたかったのだろう。電波系スターたちの力を借りて、どこまで低俗になれるか、ありえない悪趣味を人工的に作りだす美的な実験がウォーホル映画なのだ。

　筆者は何年か前に『悪魔のはらわた』の３Ｄ上映を見た。
　マッドな男爵が実験室で女の内臓に手を突っこみながらファックしたり、ホモ男の首を取りつけた不能の人造人間を作ったり、持ち前の悪趣味を徹底的に見せられた。
　赤と青の飛びだすメガネをつけていたから、飛びだす臓物をよけるのに一苦労だった。
　ウォーホルは映画を作る理由をきかれて「絵を描くより簡単だから」と答えたが、韜晦ではなく本心だろう。
　スーパースターたちと監督をたまり場に用意するだけで、後は自ら手を下さなくても、ウォーホル好みのキッチュな映画が続々と生産されたのだから。

初出　：　週刊ＳＰＡ！