エリック・ホッファー
- 作者: エリック・ホッファー,柄谷行人
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 2002/11
- メディア: 単行本
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エリック・ホッファー
浮浪者やホームレスの人たちと話していると、哲学的な考え方をする人に出会うことがある。
せわしい世の中から一歩外にでて、はじめて見えてくるものがあるのだろう。
ここにもひとりの日雇い労働者がいる。
肉体労働で最低限の生活費をかせぎ、金と暇ができれば図書館で本を読む。
工場には勤めない、結婚もしない、誰とでもいつでも苦悩なしに別れられることを自分のおきてにする。
彼の名はホッファー。ニューヨーク生まれの哲学者だ。
本書は、ニューヨーク・タイムズ誌などに掲載されたファシズムや大衆運動、知識人批判をめぐるエッセイを集めたものだ。
社会の不適合者(ミスフィット)の掃きだめから、ホッファーは独特の視点で「人間の本性」と「社会の問題」を関連づけていく。
ホッファーによれば、現代社会がはらむ危機は「後進性から近代性への、従属から平等への、貧困から富裕へのドラスチックな変化」がもたらすものだ。
20世紀にはロシア、ドイツ、日本など危険なスピードで近代化した国家が、革命、ファシズム、戦争という変化の副産物を生みだした。
ニューヨークの哲学者
その後、世界全体がアメリカ化するという急激な変化が、個人に不安をもたらし、新たな不適合者を生みだしている。
「アメリカは大衆(マス)が社会全体に彼らの趣味や価値観を押しつけた唯一の国」だが、アメリカ以外では有史以来、社会は少数者や知識人によって形成されてきた。
社会がアメリカ化していくと「知的エリート層に属している」という感情を持つ知識人こそが不適合者となり、平等で、単調で、刺激のないアメリカ的な世界に憎悪をつのらせる。
現代の主役は国家間の対立ではなく、アメリカと知識人の対立の方なのだ。
ガチガチの政治学や哲学ではなく「人間のうちにある原始的でどろどろした」感情を根底に、現代社会のひずみを見きわめようとしたホッファー。
本書の翻訳とあとがきを柄谷行人が担当していることについて、なるほど、と思わずうなづきたくなる人も多いのではないか。
初出 : Amazon.co.jp