シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

三島由紀夫と映画 ②

johnfante2007-04-12

からっ風野郎 [DVD]



右の写真は、篠山紀信撮影による「聖セバスティアン」(モデルは三島由紀夫


禁色の映画化案


「禁色」の映画化案からもわかるように、三島は大の映画通であり、そのセンスは時代のずっと先を行っていた。
作家として「映画と小説はライバル」だと考え、映画にできない事や題材を小説にしようと常日頃から映画を研究していたからだ。
それでいて、自分の映画ファンとしての無邪気な面を隠しもしなかった。


『からっ風野郎』では革ジャンの下の胸毛を執拗に覗かせるクィアーな演技を見せ、『人斬り』ではボディビルで鍛えた筋肉を誇示しながら切腹して果てる。
ナルシシズムや肉体美を誇りたい欲求を恥じることなく、B級ヤクザ映画や時代劇という場で堂々と露出しているところが、天才作家という肩書とのギャップと相まって、現代人の目にはキッチュで魅力的に映るのだ。 

映画『憂国』について


三島のなかの映画通と映画ファンの両面が最高潮に達したのが『憂国』である。
白黒の30分程の映画で台詞はなく、ワーグナーが流れる能舞台の場景で、2・26事件に参加できなかった将校が妻の目前で切腹し、妻も後を追う。
元は短編小説だが、映画版でも彼が監督と主演をつとめ、延々と続く切腹シーンを通して究極のエロスと様式美を見事に映像化した。
三島の映画が彼の小説を超えた唯一の瞬間であろう。


しかし『憂国』は数年後の実際の自決を予告しており、不吉とされ、三島の死後に遺族の要望で焼却処分されたことになっていた。
それが、2005年の8月になって『憂国』の原版が三島家の倉庫にあったことが公表された。
純愛ブームに便乗した『春の雪』で復活を果たし、三島が多面的に理解されようとしている今ほど、『憂国』が再び日の目を見るのに適した時期はない。
小説では伝え切れない彼の実像と魅力を彼の映画は余すことなく映しだしてきた。
時代が三島に追いつきつつある現在、私たちは「ザ・ミシマ劇場」を鑑賞する準備ができている。


三島由紀夫関連の映画


音楽 (新潮文庫 (み-3-17))
『音楽』(72年) 監督/増村保造 音楽/林光
音楽が聴こえなくなった若い女とそれを診断する精神分析医の物語。
「音楽」とはオルガズムの比喩。澁澤龍彦はこの冷感症的な女が、三島の女性像の原型だと指摘している。


潮騒(新潮文庫連動DVD)
潮騒』(75年) 出演/山口百恵三浦友和
三島の同名小説は5度にわたって映画化された。
ヒロインの初江役を吉永小百合山口百恵、掘ちえみなどが務めてきたため、アイドル映画の定番メニューといった感がある。


『Mishima』(85年) 監督/ポール・シュレイダー 出演/緒形拳(=三島) 日本未公開
三島が自決を図った日の行動を追いながら、「金閣寺」など三つの小説をオムニバス形式で織りこんだ幻の映画。
輸入DVDを買うか、レンタルに出ている海外版を探そう。


『みやび―三島由紀夫』 監督/田中千世子
能楽師の田中千世子がメガホンを取った異色ドキュメンタリー。
平野啓一郎野村万之丞ら現在活躍する芸術家へのインタビューを通して、三島像を浮かび上がらせる。


花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)
三島由紀夫/著 新潮文庫 
広く読まれた「潮騒」ではなく、本書の「憂国」一編を読めば、三島由紀夫という作家の良いところも悪いところもひっくるめて分かる、と三島本人が言った決定的作品。


三島由紀夫―剣と寒紅
三島由紀夫―剣と寒紅』 福島次郎/著
天才作家・三島と著者との同性愛関係を赤裸々に描いた発禁書。
98年に出版元が三島の遺族との裁判に負けたため、販売中止に追い込まれた。
図書館か古本でなら読めるだろう。



初出:週刊SPA!