シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

デイヴィッド・リンチの短編映画 ①

johnfante2007-04-16

Pretty As a Picture: Art of David Lynch [DVD] [Import]


上は、デイヴィッド・リンチの画家としての面を追ったドキュメンタリー「Pretty As a Picture: Art of David Lynch


右写真は、リンチの短編ムービー「Dumb Land」のキャラクター

インランド・エンパイア


約5年ぶりに、デイヴィッド・リンチの新作長篇映画「インランド・エンパイア」が公開される。
この映画は、これまでにない方法で撮られたものである。
あらかじめ完成した脚本がなく、アイデアが生まれたらシーンごとにシナリオを書き、それを撮影し、俳優はおろか監督自身にも結末が分からないまま撮りすすめたのだ。
そうやって3年近くかけて撮りためた映像を3時間にまとめたのが、究極の長編実験映画「インランド・エンパイア」である。
(下は「インランド・エンパイア」の予告編)


リンチの短編映画


この映画への理解の助けとなるのが、デイヴィッド・リンチの実験的な短編映画群であろう。
リンチのキャリアはアート・スクールに通う画家としてはじまり、60年代後半から70年代半ばにかけては実験映画を撮りつづけていた。
最近でも、リンチは長編映画の合い間に、CM、ビデオクリップ(ドイツのメタルバンド、ラムステインの2003年のクリップ)、短編映画を製作している。


特に、2002年に製作された50分の短編シリーズ「Rabbits」は、「インランド・エンパイア」のなかに組み込まれる結果となった。
他にも、デイヴィッド・リンチの公式ウェッブサイトで公開された、フラッシュ・アニメーションの「Dumb Land」(2002)や、同じくサイトで公開された短編映画「Darkend Room」などがある。

最近の2本の短編


「Rabbits」(2002)
「Rabbits」は、2002年にデイヴィッド・リンチが脚本と監督を担当した作品。
8つのエピソードからなる短編ビデオのシリーズである。
もとは公式サイトである「DavidLynch.com」で公開されていたが、現在は見ることができない。
映画のセットと撮影された映像は、「インランド・エンパイア」で再利用されている。
それぞれのエピソードは、人型ロボットのウサギ3匹が住む1部屋だけで進行する。
このシリーズの原型は、テレビのホームコメディである。
笑い声もかぶせられている。
しかし、冗談が言われることはなく、笑い声はあきらかに不適切なタイミングでかぶっている。
長い会話の間にときどき入る、キャラクターの行動はちぐはぐに見える。
「Rabbits」は次のような決まり文句ではじまる。
「雨ばかりが降りしきる名もない都市で…3匹のウサギは怖ろしいミステリーに耐えていた」


「Dumb Land」(2002)
「Dumb Land」は8つのエピソードからなる動画アニメショーンである。
脚本、監督、声の出演をデイヴィッド・リンチが受け持った。
2002年に公式サイトで公開され、2005年にはDVD化(日本では未発売)された。
すべてあわせて30分の長さの作品である。
このシリーズは、ふくれた頭をした、ずっと口を開けっ放しで歯が三本しかない、凶暴でいつも怒っている口汚い男の日常を詳しく描く。
この男は、多動症でストレスをためこんだ妻と、キーキーという声をあげるエイリアンのような子供と一緒の家に暮らしている。
リンチのウェッブサイトによれば、男の名前はランディで、子供の名前はスパーキーである。
妻には名がないようだ。