シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

三島由紀夫と映画 ①

johnfante2007-04-08

春の雪 [DVD]

春の雪 [DVD]


上は三島の遺作である豊饒の海、第一部「春の雪」の映画版。


右の写真は、細江英公が三島を被写体に撮った写真集「薔薇刑」より。

三島映画の再確認


2005年は三島由紀夫が衝撃の割腹自殺を遂げてから35年、生誕80年ということで、三島の映画イヤーとなった。
三島の小説はその完成度の高さが好まれ、『潮騒』など20本以上が映画化されたが、耽美的な作風が時代に合わなくなり、86年の『鹿鳴館』を最後に全く作られていなかった。


それが11月の命日をひかえて、急に三島の映画に関するニュースが新聞を賑わした。
19年ぶりの映画化『春の雪』と、三島に関する記録映画も公開されたのである。
どうして三島の映画が突如として脚光を浴びたのか、その内情を検証してみたい。

「禁色」とクィアー映画


2005年9月に、三島の小説「禁色」を映画化する構想を書いた手紙が発見された。
そこには原作・脚色・監督を三島が担当し、主役は山村聰岸恵子も起用するという具体的な案が示されている。
「禁色」は’50年代に発表され、評判を呼んだ男色文学だ。
老作家が同性愛者の美青年を使って裏切られた女たちに復讐をするという筋だが、読んでみると、当時のゲイ・シーンをも大胆に取りこんだ革新的な娯楽小説である。


三島との肉体関係を暴露して発禁になった「剣と寒紅」の著者も、「禁色」に登場するゲイ・バーの実際の場所を尋ねに行って三島と知り合ったという。
初めて『薔薇と海と太陽と』が公開されたのが82年だから、映画化されていたら日本で最初期の薔薇族映画の1本になっていたかもしれない。(②へ続く)



炎上 [DVD]
『炎上』(58年) 主演/市川雷蔵 
市川崑が小説「金閣寺」を白黒の丹精な映像美で映画化。
三島も「これ以上は望めない」と激賞した。
三島の原作ものと言われたら、これを挙げておけばまず間違いない。


からっ風野郎 [DVD]
『からっ風野郎』(60年) 監督/増村保造
大映の社長の案で三島の主演が実現。
天才作家の短躯短足にファンは息を飲んだという。
豪傑な男の役だったが三島に合わず、監督が困って喧嘩の弱いチンピラ役に変更した。
殺し屋に命を狙われるチンピラを三島が熱演。
主題歌を唄い、革ジャンから胸をのぞかせ、情婦を引っぱたき、最後にはみじめな死に様をさらすミシマに萌える!


剣 [DVD]
『剣』(64年) 出演/市川雷蔵川津祐介
三島の原作小説を時代劇の名匠・三隅研次監督が映画化した。
純粋に剣の道に打ち込む大学の剣道部の主将に訪れる悲劇を、感情を一切排した静謐な映像で撮り上げている。


『黒蜥蜴』(68年) 出演/美輪明宏丹波哲郎
三島は鍛えあげた肉体美を誇示するために人間剥製として出演。
無理な体勢で静止して、身体がプルプル震えているのはご愛嬌。
三島と美輪明宏のキスシーンも見所だ。


三島由紀夫映画論集成
三島由紀夫映画論集成』
三島由紀夫が生前に残した批評、エッセイ、対談、座談、インタビューまで映画に関するあらゆる文章を網羅した完全版


三島由紀夫と映画―三島由紀夫研究〈2〉 (三島由紀夫研究 (2))

三島由紀夫と映画―三島由紀夫研究〈2〉 (三島由紀夫研究 (2))