ヒトラーの贋札 ベルンハルト作戦 ①
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史上最大級のニセ札事件「ベルンハルト作戦」
紙幣贋造を強いられた、ユダヤ系の技術者たち
自分の命を守るのか、家族や仲間を守るのか
歴史的事件のうらにかくされたストーリー(映画『ヒトラーの贋札』は1月19日より全国公開)
(右は当時の写真、後列左が著者のアドルフ・ブルガー)
贋札1兆円
1959年。ハンブルクの雑誌「シュテルン」が、かつてのナチの親衛隊員から、とある情報を聞きだした。それがきっかけで、この話は公に明るみに出たという。
戦時中、ナチスがオーストリアのトプリッツ湖に9つの木箱を沈めたという。その湖に潜ったダイバーは、贋札や印刷原版、工具、機密文書が入った箱を発見した。
大量のイギリス・ポンド紙幣は、1億3460万ポンドに相当した。当時の価値で295億円、現在の価値だと1兆円以上にあたるものだ。
一緒にみつかった資料から、それら贋札は第2次世界大戦中に、ナチス・ドイツがイギリスの経済混乱を狙った「ベルンハルト作戦」のもとで、収容所内の紙幣贋造工場で作ったものだということが判明した。
トプリッツ湖には、いまでも「ナチスの黄金」が眠るといわれ、トレジャー・ハンターたちが探索を続けている。
贋作師サロモン
1936年、ベルリン。賑わう夜の酒場で、サロモン・スモリアノフは自分の商売に忙しかった。
彼はその秀でた芸術的才能を利用し、身分証やパスポート、紙幣などあらゆる偽造を行う贋作師。捕まることを防ぐために、同じ国、同じ街には、けっして長く滞在しない。
サロモンはロシア生まれで、将来は偉大な芸術家になると周囲から期待されていた。それが20代半ばから贋作師として、国際的に暗躍しはじめた。同じ場所では仕事をせず、人間関係もつくらず、ヨーロッパを転々としながら、自分の欲望をみたす悪党。それが、サロモンの正体だった。
そんな彼にも弱点があった。その夜、サロモンはベルリンで美しい女性と一晩をともにした。翌朝、彼は捜査官のベルンハルト・クリューガーに捕らえられてしまう。
サロモンはユダヤ系だったので、ただちにマウトハウゼン強制収容所に送られた。彼はそこが犯罪者の送られる刑務所だと思っていたが、ほどなくしてそうではないことに気づく。
その場所では、囚人たちが次々と組織的に殺されていた。サロモンをはじめとして、囚われているのはユダヤ人ばかり。ナチスによるホロコーストがはじまっていたのだ。
地獄のような日々のなか、息抜きに描いたスケッチがナチス親衛隊の隊長に気に入られ、サロモンは彼らの肖像画やプロパガンダの壁画を描く、お抱えアーティストとなって生き延びた。
「ヒトラーの贋札」予告編
収容所へ
1944年のある日、サロモンにザクセンハウゼン強制収容所への移送が言い渡される。
死を覚悟した彼をそこで待っていたのは、意外な人物だった。ベルリンで自分を捕らえたベルンハルトである。彼はサロモン逮捕のおかげで、SS(親衛隊)の少佐に出世し、いまや極秘任務を指揮する立場となっていた。ベルンハルトは自分の仕事のために、サロモンをずっと探していた。
サロモンが与えられた驚くべき任務は、イギリス経済に打撃を与える「ベルンハルト作戦」の一角をになうこと。作戦に使用する完璧な贋ポンド紙幣を、ナチスは特殊技術を持つ囚人を使って、大量生産しようとしていた。
サロモンはその腕を見込まれて、移送されてきたのだ。
ベルンハルト作戦
1939年、ひとりの少佐が、贋ポンド札を英国上空からばら撒く計画を提案し、ヒトラーの承認を得た。その少佐が失脚したあと、後任になったのがベルンハルト・クリューガーだった。
1943年、ドイツにとって戦局が悪化すると、休止していたベルンハルト作戦が復活。贋造紙幣を大量に生産して、武器の購入代金、スパイの秘密工作資金、外国での物資調達資金に使おうというのだ。
ザクセンハウゼンの収容所の贋札工場には、サロモンが移ってきた時点で144人の囚人が働いていた。そのほとんどがユダヤ人。
ベルンハルトが何よりも怖れたのは秘密の漏洩で、贋札工場は一般の囚人とは、完璧に隔離された場所にあった。そこで、各地の収容所から集められた、印刷や銅版画のプロたちが働いていた。
そこには美しい音楽が流れ、清潔でふかふかのベッド、温かい食事が用意されており、今までと比べるとまるで天国のような待遇だった。
しかし、それは作業員たちの士気を高め、完璧な仕事をさせるためのもの。もし任務が成功しなければ、作業員たちはガス室へ送られる。反対に、任務が無事終了したときも、秘密保持のために、同じく死が待っていることは明白だった。
贋札工場でサロモンは一緒に移送されてきた、印刷技師のアドルフ・ブルガー、美学校生のコーリャらと共に作業にとりかかった。
「とにかく、完璧な贋ポンド札を完成させて、量産しなくてはならない。それが、自分たちの命を一日でも延ばすことになるのだ」
サロモンは心に思った。
- 作者: アドルフ・ブルガー,熊河浩
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