ヒトラー ~最期の12日間~ スペシャル・エディション [DVD]
- 出版社/メーカー: 日活
- 発売日: 2006/01/14
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二〇〇五年は終戦から六十年、ということは、アドルフ・ヒトラーと第三帝国の終焉からも六十年になる。
ヨーロッパ全土を戦争に巻きこみ、ユダヤ人を大量虐殺した悪の枢軸として、ナチス・ドイツはしばしば映画のなかに登場してきた。
『カサブランカ』は反ナチスの運動家とその妻の亡命をえがき、『サウンド・オブ・ミュージック』の歌が好きな修道女と軍人の一家はナチスから逃れるために国境の山を登る。
『レイダース 失われた聖櫃』のインディ・ジョーンズ博士の任務は、ナチスが最大の武器「アーク」を発見するのを阻止することであり、最近では『戦場のピアニスト』の音楽家が収容所送りを逃れて隠れ家を転々とする姿が記憶に新しい。
ジャンルを問わず、映画にとってはナチス・ドイツが体現する「悪」のイメージを消費してきた六十年であったといえる。
ドラマを盛りあげ、物語に感動をもたらすための装置として悪役のナチスは機能し、鉤十字と親衛隊の制服は亡霊のように何度もよみがえっては、スクリーンの上で生きつづけてきた。
『ヒトラー 最後の12日間』は、大衆メディアに現れたナチス・ドイツのこれまでのイメージを一新するかもしれない映画だ。
ソ連軍の砲火がせまりくるベルリンで、ヒトラーは側近らとともに首相官邸の地下にある退避壕に避難している。
もはや状況を客観的に判断できないヒトラーは、ありえない逆転劇を主張し、軍事会議で側近たちを困惑させる。
独裁者のもとから逃亡するもの、酒におぼれて現実逃避するものが出るなか、ヒトラーがピストル自殺するまでの日々を、秘書をしていた若い女性ユンゲの視点からえがいている。
秘書といっても口述筆記はほとんどなく、食事や散歩やお茶会でヒトラーや愛人のエヴァ・ブラウンと歓談するのが仕事のようなものだ。
この映画のなかのヒトラーは女性たちに対して紳士的で、子どもにやさしく、きわめて人間らしい。
たえまなく手が振るえ、片足をひきずる姿は、秘書の目には疲れ切った中小企業の社長のような、かわいそうなおじさんとして映る。
冷酷な独裁者は血も涙も通うふつうの人間であった。
②へつづく