ヒトラーの贋札 ベルンハルト作戦 ③

ヒトラーの贋札 悪魔の工房

サボタージュ

しかし、「ナチの金は刷れない」とブルガーは協力を拒否。ナチスが降伏するまでドル紙幣の製造を引き伸ばすべく、時間稼ぎと作業の妨害をしはじめた。
なかなか成果のでないことに痺れをきらせたベルンハルトは「サボタージュ（破壊行為）だ」と怒り、「あと4週間以内にでき上がらなかった場合、プロジェクトに参加している囚人は全員射殺する！」といった。

死に怯える作業員たちは、ブルガーのことを密告するべきだとサロモンに詰め寄る。だが、あの利己的な悪党だったサロモンが「仲間を売ることはできない」と拒否。何かが確実にサロモンのなかで変わっていた。そこで、なんとか贋ドル札をブルガーなしで仕上げようと、寝る間も惜しんで作業し続けた。
そんななかで、サロモンが目をかけていた学生のコーリャが結核に侵される。薬がなければ命が危ない状態になった。サロモンはベルンハルトのある作業を引き受ける代わりに、薬をもらう取引をする。
それはベルンハルトと妻子の、スイスのパスポートを偽造すること。戦況を不利とみたベルンハルトは国外逃亡を企てていたのだ。

完成の期限

贋ドル札完成の期限が来た。サロモンは見事に贋ドル札を作り上げ、ベルンハルトとの取引にも成功し、コーリャの薬を手に入れることができた。
しかし、コーリャの病気がなぜか親衛隊にばれてしまい、感染防止のために銃殺されてしまった。親衛隊員のハインリッヒは、「お前たちに感染しないように、やったのだ。最後にタバコを吸わせてやったが、彼は覚悟していて、堂々と死んでいった」と報告した。

数日後、親衛隊は工場の作業を停止し、すべての機材を運び出しはじめる。頭の上はひっきりなしに爆撃機が飛び、すぐそこまで連合軍が迫ってきていた。
親衛隊の兵士がすべて去った夜、工場にベルンハルトが忍びこんでくる。密かに隠しておいた贋ドル札を取りに戻ってきたのだ。それを見つけたサロモンは、彼から銃を奪い突きつける。コーリャの銃殺は、ベルンハルトの命令だと確信していた。引き金に指をかけたが、サロモンがその指を引くことはなかった。

解放の日

翌朝、硬く閉ざされていた工場の扉を破ったのは、連合軍ではなく収容所に囚われていた人々だった。収容所は囚人によって占拠されていた。
ここで問題が起こった。骨と皮ばかりになった一般の囚人に比べて、贋札工場で働いていたサロモンたちは身ぎれいな服装をして、栄養がいきわたり太っていた。
「ＳＳ（親衛隊）が変装しているんだ！」
　囚人たちはそう怒鳴って、サロモンたちを殺そうとした。サロモンたちはあわてて、腕に焼印された囚人番号を見せて、その誤解を解くのだった。

その次に、一般囚人による「協力者」と「密告者」さがしがはじまった。サロモンたち贋札工場の囚人が対独協力をしていたから、特別な待遇を認められていたのだろう、というのだった。
そのとき、ブルガーが胸をはって立ち上がった。
ブルガーは自分たちが、偽ドル札の製造をわざと遅らせて、ナチスに協力しないように抵抗したことを話した。一般囚人たちも、ブルガーの話で納得した。そうでなければ、リンチされて殺されていたかもしれなかった。

贋ドル札をつくったサロモンと、ブルガーのことを密告しようとした贋札工場の仲間たちは、今度はブルガーの正義を貫いた意志によって、命を救われることになったのだ。

エピローグ

イングランド銀行が戦後、すべての50ポンド紙幣を回収して、新たにちがう透かし模様を入れた新紙幣と交換したほど、彼らの贋札は非常に高品質なものだった。
戦後しばらくの間、イギリスの人々はサロモンたちが作った5ポンド、10ポンド紙幣などの贋札を、それとは知らずに使っていたのかもしれない。
こうして作られた、256億円（現在の価値で1兆円あまり）の贋札。
史上最大規模の贋札事件「ベルンハルト作戦」。そのうらには、自分の技術で人々の命を救うことになった贋作師サロモンと、死を賭して正義をつらぬいたブルガーの知られざるストーリーがあったのだ。

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