シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

オイ・ビシクレッタ ③

johnfante2008-04-25


路上にて


セルタォンの荒地のなかを、4台の自転車でいく7人。
バイーア州ジュレマルに着き、次男クレヴィス、三男ロドネイ、長女スエラーナらは、レストランの前で車をつかまえて洗車のバイトして日銭を稼ぐ。廃屋を見つけると野営し、野生の豚をつかまえて食事にするような日々。
ある夜、ほっつき歩いていたアントニオとロドネイは、教会を見つけて入っていく。そこの祭壇にはおもちゃがたくさんあった。ロドネイがうっかり倒した賽銭箱から、ごっそりと金が出てきた。それをポケットに入れて、アントニオは逃げ出した。


ようやく一家は、北東部の都市フィラ・デ・サンターナ市に到着。アントニオは駅へいって、リオ行きの切符を人数分買ってきて、家族を喜ばせようとする。
しかし、ロマンは猛烈に怒った。
「うちは貧しい。だが、物乞いはしても、泥棒はしない」
そういって、リオ行きの切符は引きちぎった。それらを惜しそうに眺めるローゼ。


ある日、ローゼのアイデアで、一家は大人も子ども雇ってくれるという日雇いの仕事に行く。
「何かあやしい」と訝るロマンだったが、「自転車旅行なんて気が狂ってる。私たちにはお金が必要なのよ」というローゼに押し切られる。
写真を撮られて、トラックの荷台に乗せられたロマンの一家は、ポルト・セグーロにある海辺のリゾートへつれていかれた。



ブラジルの国民的シンガー、ロベルト・カルロスの曲も映画の魅力のひとつ


観光地にて


ポルト・セグーロはバイーア州にある世界的な観光地。
ポルトガル人のカブラルが1500年にブラジルを発見、最初に上陸した街として知られている。街のあちこちにダンスショーやゲームなどで遊べる観光客目当ての施設がある。


ローゼとアントニオとシッソが審査で弾かれて、ほかの4人は日雇い仕事に呼ばれていく。
そこでアントニオが覗き見たのは、熱帯雨林に住む先住民族パタショ族に扮し、腰みのに上半身裸の姿で踊るロマンと弟妹の姿たちであった。
「クァルッピ」と呼ばれるハロウィンにあたる儀式と踊りを、観光客が見つめるリゾートの舞台のうえでやる仕事だったのだ。
自尊心をひどく傷つけられたロマンは、中途で装束をぬいで走り去る。
「おれが認めない仕事をやらせるな!」
もどってきたロマンは、ローゼにそう宣告した。


父親の醜態を見たアントニオは、リゾートにあるクラブで一晩遊んでしまう。
翌朝、母親のローゼにさんざん叱られる。
「僕はいかない、ここに残る」というアントニオ。
「息子は親を敬うものだが、所有物ではない。好きにさせてやれ」とロマン。
一家はアントニオを置いて、リオへと向かった。


聖地リオへ


しかし、過ちに気がついたアントニオは一人で一家のあとを追い、エスピリト・サント州グァラバリにあるガソリンスタンドで再会する。
ひとりの大人の男に成長したアントニオを見たロマン。建築作業現場で運転手の仕事を探すが、見つからなかった。
その代わり、長男の現場作業員としての仕事を見つけることができた。ロマンはアントニオに煙草のパックを渡して言う。
「次からは自分で買え」
ローゼとアントニオの涙の別れ。一家はリオまであと3分の1の道のりまできていた。


そして、ついにリオ・デジャネイロに到着。出発してから半年が経過していた。
リオと言えば丘の上のキリスト像。国立公園内の中にあるコルコバードの丘の一番見晴らしの良い高台に造られたヘデントールは1931年に建立。
世界中から観光客が訪れる名所である。ふもとから登山電車が出ているが、頂上に近くなるにつれ姿を現すリオ市街の全景。


ローゼとロドネイはギターをもって、その丘でさっそく日銭稼ぎにせいを出した。
ロマンは幼児の面倒を見なくてはならず、とりあえず物売りの仕事を見つけた。しかし、ここでも月収1000リアルの運転手の仕事は見つかりそうにない。
コルコバードの丘から、遠く首都ブラジリアの方がながめるロマン。
その姿を見とがめたローゼは、次のように言った。
「半年かけてたどり着いたのよ。もう旅暮らしはうんざりだわ」
ロマンの願いがかなう日は、もうすぐそこまで来ていた…。