シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

オイ・ビシクレッタ ①

johnfante2008-04-18


失業中のトラック運転手。
月1000レアルの仕事を求めて、リオまで3200キロの旅にでる。
7人家族を置き去りにもできず、自転車4台で旅にでる…。
ブラジルで本当にあった話。

北東部の貧しい家族


1998年、ブラジル北部のパライーバ州。ロマンはトラックの運転手で、一家7人の家計を支えていた。
しかし、それだけでは食べることができず、妻のローゼはハンモックをつくって金を稼いでいた。
それでも、ブラジルのなかでも特に貧しいセルタォンに暮らす、ロマンの一家は生計を立てることができなかった。


ブラジルの北東部の内陸には、セルタォンと呼ばれる荒野が広がっており、旱魃が多く、農業や牧畜などの産業にあまり向いていない。観光や商業も低迷している。
このセルタォンは、ブラジル国内のなかでも特に貧しい地域と言われており、学校にも通わず働いている子供が多い。
多くの者が職を求めて、リオ・デジャネイロサンパウロといった大都市に出稼ぎに行くことになる。ロマンの一家も典型的な「ノルデスチーノ(北東部出身者)」で、仕事を求めて大都市に向かうことは珍しいことではなかった。



『オイ・ビシクレッタ』(原題 O Caminho das Nuvens)の日本版予告編


ロマンの失業


ロマンはトラック運転手の職を失い、失業者となったことをきっかけに、生活を一新することを決意する。
彼は文字こそ読めないが、宗教心に篤い男だった。ある日、リオへ行って、自分にあった仕事を探すがよい、という神さまのお告げを聞いた。
「月1000レアル(約400ドル)稼げる仕事さえみつかれば、贅沢はできなくても大家族を十分に養っていくことができる。そうするためには神様のいうように、ここにいてはいけない。大都市リオ・デジャネイロへ行って、新しい仕事を見つけるのだ」
ロマンはそう考えた。(都市部の住民1人当たりの平均月収が約500レアル=約200ドル、北東部では3分の1の約170レアル=約70ドル 2006年調べ)


金のないロマンは、ヒッチハイクでリオまで行く準備をはじめた。
「だけど、家族のために仕事を探すのに、家族と離ればなれになってしまっては本末転倒だ」
ブラジルでも珍しくなってきた頑固で、昔気質なロマンはそう考えると、家族を一緒に連れていくことにした。
6ヶ月の乳飲み子、シッソを抱える妻のローゼは猛反対したが、ロマンは一度決めたら何があっても貫くタイプだった。
しかし、一家7人ではヒッチハイクで乗せてくれる車も見つからない。自分の車は持っていない。そこで妙案をひねり出した。家にある4台の自転車で行けばいい。
ほとんどの家財道具を売り払い、もてるだけの持ち物をもった。
こうして一家7人、妻と4人の子供、それに6ヶ月の乳児を連れた、リオまで3200キロの自転車の旅がはじまった。