映画芸術
- 出版社/メーカー: 編集プロダクション映芸
- 発売日: 2008/04/30
- メディア: 雑誌
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『映画芸術』誌の「アメリカ映画のいま」という特集で、長めの映画評論を書いています。論じているのは、アメリカ映画の新作5本です。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』
『告発のとき』
『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』
『さよなら。いつかわかること』
『大いなる陰謀』
書き出しは以下のような感じです。
「海の向こうで戦後が始まる」
■大統領選とふたつの戦後
英語でうるう年はリープ・イヤーという。
オリンピックの年であり、アメリカでは何よりも大統領選挙の年を意味する。
北部と南部、白人と黒人、富裕と貧困、保守とリベラル、男性と女性といったアメリカ社会の差異や対立があらわになり、予備選から本選まで一年をかけて、それぞれの立場や利益を代表する候補がふるいにかけられる。
小説家のスティーヴ・エリクソンは「アメリカ人は、それぞれ自分の中に秘密のアメリカをもっていて、その秘密が一人一人の特徴になっている」という。
この言葉を正確に理解するためには、まず人々の心や観念のなかにある普遍精神としての「アメリカ」と、現実的な国家としての「合衆国」を区別して考えるべきだろう。
そしてエリクソンは、ひとり一人が「秘密のアメリカ」を「合衆国」という現実の場において明らかにしようとするのが、大統領選というものの正体だというのである。
アメリカは同時多発テロで国土を攻撃されて自尊心を傷つけられた上に、アフガニスタン侵攻とイラク戦争という正当化できない戦争に突入した。
そのことで、人々は「世界から嫌われるアメリカ」の姿を自覚せざるをえなくなった。
大統領という最大の権力者を選ぶにあたり、「アメリカとは何か」という問いが再浮上してくるのは当然のことだろう。
二〇〇七年末から半年ほどの間に大統領暗殺もののアメリカ映画が何本か公開されたが、これからはそのように単純に世相を反映したものではなく、石油、政治家、軍人、戦争遺族といった観点からアメリカの現在を深くえぐり、その内側を解明しようとする意欲作が次々と公開される。
「合衆国」というモンスターの正体をつかむには、何よりも個人レベルにおける「秘密のアメリカ」にまでおりていく必要がある。
アメリカ映画を観るという行為は、私たちをそんな場所へ連れていってくれる絶好の手段となるにちがいない。
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