シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

ラスベガスをぶっつぶせ ①

johnfante2008-05-29

ラス・ヴェガスをブッつぶせ!

ラス・ヴェガスをブッつぶせ!


世界中から理数系の秀才が集まるマサチューセッツ工科大学
そこの学生からなるチームが数学的知性を駆使し、合法的な手段で
数億円をラスヴェガスで荒稼ぎし、カジノを荒らしまわっていた…
上写真はその実話のノンフィクション・ノベル、右はその映画化作品


ケヴィン・ルイス


1994年6月。
ケヴィン・ルイスは20歳で、MIT(マサチューセッツ工科大学)の典型的な優等生だった。長身で黒い髪、エスニック系の混ざったエンジニア風のルックス。履歴書は完璧。
名門高校を主席で卒業し、MITの電気工学専攻の学生でオールAの成績をとっていた。
大学3年のときに医学部に進学し、毎日、化学研究所で試験管に囲まれる生活となったが、薬学に興味をなくしていた彼には苦痛で仕方なかった。


ある日、ケヴィンはジムで知り合った2人の男に、ボストンのスシ屋へ誘われた。
フィッシャーは中国系の巨漢で27歳。そのルームメイトのマルティネスはブラジル系。2人とも入学当初大学院レベルのコースへ入れられたほどの数学的天才だったが、なぜか自主退学して大学をドロップアウトしていた。
しかし、まったく金に困っている様子もなく、毎週末ラスヴェガスに行く話をしていた。2人が麻薬の売人ではないか、とケヴィンは疑ったこともあった。


無限の廊下


94年9月。
ケヴィンがジムのプールから出てくると、フィッシャーとマルティネスが待っていた。
「お前に会ってほしい人がいるんだ」と言われ、MITのメインキャンパスにある長い「無限の廊下」を歩き、窓にシェードをした一つの教室に連れていかれた。
そこには40歳前後のミッキー・ローザとMITの7人の学生が、黒板に貼ったチャートを前に座っていた。ミッキーは16歳でMIT入学を許され、昔は大学講義もしていた頭脳明晰な男である。


「ケヴィン、君を我らがMITブラックジャック・チームのメンバーに迎えたい」
「どうして僕を?」
「成績もいいし、数字に強い。それに見た目もぴったりだ。ブラックジャックはプレーヤーがカジノで合法的に勝つことができる、唯一のテーブルゲームだ。いつ賭けるべきか、いつ席を立つべきかを見極め、カード・トラッキング(追跡)とカード・カウンティング(計算)を駆使すれば、勝利する確率を飛躍的にあげることができる。これには数学と記憶力に優れた頭脳が必要なんだ。」



ラスヴェガスをぶっつぶせ』予告編


カード・カウンティング


「カード・カウンティングのハイ・ロー法は知っているかな?」
ミッキー・ローザが話を続けた。
「すでに使用されて見えてしまったカードを記憶し、まだ未使用の山にどのようなカードが残されているかを読む高等戦術だ。プレーヤーが具体的に知りたいのは、未使用のカードの山に絵札やAなどの強いカードがどれだけ多く残されているかだ。これらを予測するために、カードカウンティングがある。
出てしまったカードがAおよび 10や絵札ならば、1枚につき−1点、7、8、9 ならば0点、2、3、4、5、6 は +1点とし、それらをプレーの最中に刻々と合計していく。そして、その合計の数値がプラスの値ならばプレーヤー側に有利な「好機」と解釈し、ふつうは賭金を多めに張る。逆にマイナスならば不利な状況と判断し、賭金を減らすんだ」


63年にMITのエドワード・ソープ教授のシミュレート実験の結果、トランプの山にローカード(6以下)が多く残っている場合はディーラーに有利、ハイカード(10、絵札、A)が残っている場合はプレイヤーに有利という原理を証明した。
実践においても、ローカードが残っているとディーラーはバストしにくくなり、プレイヤーのダブルの効果が薄れる。
Aが山に多いのは明らかにプレーヤー側に有利になる。ブラックジャックが完成する確率はプレーヤーもディーラーも同じだが、プレーヤーに完成した場合は 1.5倍もらえるからだ。
絵札が山に多くてもプレーヤー側が有利になる。17 までは必ず引かなければならないディーラーにとってバストの確率が高くなり、絵札が多いのはブラックジャックができやすくなり、プレーヤーにだけ認められるダブルが効果的に決まるからだ。
この基本原理の上に、カード・カウンティング法は長年開発されてきた。


ブラックジャック


「しかし、これには2つの問題がある」とミッキー。
「それは」とケヴィンが口を開いた。「有利性のパーセントが低い(実際は2%)から、大きく勝つには莫大な元手が必要ですね。それに賭け金が派手に増減するから、カジノ側に見つかりやすくなるでしょう」
ミッキーは口笛を吹き、フィッシャーが感心したような顔を見せた。
「われわれはその両方の問題を解決できるシステムを考案したんだ。近々ヴェガスに行くんだが、ぜひ君にも来てほしい」
「どうしようかな。胡散臭いし」


「何年もカジノは人々から金を巻き上げてきたのよ」台湾系の学生キアンナが口を開いた。「どのゲームだって圧倒的にカジノ側が有利なルールになってるんだもの」
ブラックジャックは記憶力があれば勝てるゲームだ」とミッキー。「過去(すでにディールされたカード)と未来(これからディールされるカード)がある。その狭間で頭を使えば、勝つ確率を高めることができる。それは違法行為ではない」
「もし、見つかったら?」とケヴィン。
「出て行けといわれるだろう。そうしたら素直に出て行けばいい。通りの向かいには別のカジノがあるんだから」



ブラックジャックのプレー法


ブラックジャックは、手持ちのカードの数字の合計が「21」を超えない範囲で 「21」 に近い方が勝ちというゲーム。カジノでは、個々のプレーヤーとディーラーとの1対1の対戦形式で勝敗が決められる。つまり、プレーヤー同士は互いにまったく関係ない。


○プレーヤーが自分の賭金を決めて、チップを置く。
○ディーラーが各プレーヤーと自分にカードを2枚ずつ配る。ディーラーは2枚のうち1枚は表向き(アップカード)
○プレーヤーはアップカードからディーラーの最終的な数字の合計を予想、さらにカードをもらうか(ヒット)やめておくか(ステイ)決める。状況によっては、賭け金を2倍(ダブル あと1枚しか引けない)にしたり、同じ数字のカードを分けて(スプリット 最初の2枚の組み合わせでは勝てない場合などに使う)手を2つにすることもできる。
○プレーヤーは21を超えるまで何枚でもカードを引くことができる。


○プレーヤー全員がカードをもらったら、ディーラーは伏せたカードを表に向けて手を披露。合計が 16以下の場合、17以上になるまでカードを引き続ける。17以上になったらそれ以上引けない。(ディーラーの手は17〜21あるいは22以上のバストしかない。つまり、ディーラーには自由意思や「プレーの選択権」がなく、誰がやっても同じことになる。
○ディーラー対プレイヤーで、合計が21に近い方が勝ち。21を超えるとブタ(バスト)で、無条件の負け。両方がバストならプレイヤーの負け。同じ数は引き分けでチップは動かない。
○10、J、Q、K はすべて 10として数える。だから10の出現率だけが飛び抜けて高い。Aは1または11と数え、自分の都合のよい方に解釈できる。A+10か絵札はブラックジャックで一番強い。プレイヤーがブラックジャックの場合、払い戻し金が1.5倍になる。
カジノで使われるチップの色と額は、ふつう白=1ドル、赤=5ドル、緑=25ドル、黒=100ドル、紫=500ドル、黄=1000ドルの順。