シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

ラスベガスをぶっつぶせ ②

johnfante2008-06-02

ラス・ヴェガスをブッつぶせ!

ラス・ヴェガスをブッつぶせ!

3つのテスト


ラスヴェガスに行く前に、MITブラックジャック・チームのメンバーとして、ケヴィンは3つのテストに合格しなければならなかった。
なぜなら、ミッキーが考案したシステムとはチームプレイだったからだ。
チームにはスポッター、ゴリラ、ビッグ・プレイヤーの3つの役割がある。
スポッターはテーブルに着いて、ミニマムを賭けながらカード・カウントをする。一般の人と何ら変わらず、勝ったり負けたりする。
カウントが+の大きい数で場がホットになったら(残りの山にAや絵札が多い場合)、合図をしてゴリラやビッグ・プレイヤーを呼ぶ。スポッターは単純なカウンティングができればいい。


ゴリラは酔った金持ちのガキのふりをして、大金を賭ける。
これにはブラックジャックの基本戦略を知っておく必要がある。カウントはしない。いいカードは終わったというスポッターの合図を待ち、席を立って他のテーブルからの合図を待つ。


ビッグ・プレイヤーはすべてを1人でやる。スポッターに呼ばれるまではゴリラと一緒だが、自分でカウントしながら賭け金を上下して調整する。補助としてシャッフル・トラッキングをすることもある。
山(デック)やシュー(配るカードを入れる直方体の入れ物で、テーブルによって1〜6組のトランプを入れる)の中のどの部分がプレイヤーにとって望ましいか、シャッフル時などに目で追って予測する。


前のゲームで望ましかった部分を覚え、目でその部分を追いかける。ディーラーがシャッフルした後、プラスチック板でAのところでカットしたりする(4回くらいの浅いシャッフルが普通だが、これだと大して混ざりはしない。逆に深いシャッフルをするテーブルは、ゲームの中断時間が長くなりプレイヤーに嫌がられる傾向があり、カジノ側にとっては時間を失うことは金を失うことにも等しい)。


数学的な美


それから数週間、ケヴィンはカードに完全に取り憑かれた。
金への欲望ではなく、カウンティングの数学的な純粋美に魅せられたのだ。
ケヴィンはMITの先達がコンピュータを駆使しながら、何百万回も実験を重ねてつくったチャートを見ながら、基本戦略を理解し記憶していった。
チャート通りにプレーする場合、カジノ側の有利性は0になる。



H:ヒット ST:スタンド(ステイ) D:ダブルダウン SP:スプリット  SR:サレンダー


ミッキーとメンバーたちは暗いカジノを再現した教室で、ケヴィンに訓練を行った。
大きな音楽や騒音、話しかけてくる人々のなかで、素早く配られるカードをカウントするのは相当な集中力を要する。また何時間も続けるためには持久力も必要だ。
単純なカウンティングをマスターすると、ひと目でシューに残っているカード枚数を把握する方法を学んだ。これで単純なカウンティングをトゥルー・カウンティングに進化させた。
残りカードが減るにつれて、カウンティングの持つ意味は増していく。トゥルー・カウンティングは、山の中に正確に何枚のハイカードが残っているかを計算するものだ。


チーム・プレイと記憶術


10月半ばまでに、ケヴィンはスポッターとゴリラになるため、サインの訓練を受けた。テーブルがウォームな場合は腕組み、ホットになったら両腕を後ろに回し、さらにホットなら両手をポケットに入れる。
「話がある」なら耳に触れ、「カウントはどうだ」は耳を掻き、「様子がおかしい、すぐに出ろ」なら両手で髪を梳く。さらに人前でゴリラやビッグ・プレイヤーにカウントを伝えるために、記憶術と関係する合図を18 通り覚えなくてはならない。
これらの単語はカジノ側のディーラーやピットボス(責任者)の前で使うので、単純な単語を文に入れて使う。


例 スイッチ +2 オンかオフの2値だから   カー +4 四輪
  ボウリング +10 ストライク   エッグス +12 1ダース入り
  スウィート +16 スウィート16  ペイチェック +15 給料日は15日  
  ヴォーティング・ブース(投票所) +18 選挙権が得られる年齢


「こんなことよりボウリングがしたい」は+10を意味し、「ホテルの俺の部屋は投票所ほどしかない」は、目が飛び出るほどの額を賭けてもいいことを意味する。



MITブラックジャック・チームの再現ドラマ(日本語)


最終試験


土曜日の晩、ケヴィンはボストンのチャイナタウンで最終試験を受けた。
怪しげな通りの地下にカジノがあった。
ケヴィンが入ってきても、メンバーは知らんふりをしている。マルティネスが腕組みしていた。
「来い」という合図だ。ケヴィンがテーブルに座って右耳を掻く(いくつだ?)と、マルティネスは「寒くて魔女(+13)も凍えそうだ、暖房費払ってないのか」とディーラーに言った。


ゲームは完璧だった。ディーラーやウェイトレスとおしゃべりしながら、シャッフルされるまでカウンティングを続けた。
次々と勝ち続け、25ドルが900ドルになった。
チップを手にしようとした瞬間、背後からバッグを頭にかぶせられた。
隣の部屋でバッグをとられると、フィッシャーが立っていた。
「ケヴィン、カウントはいくつだ?」
「馬鹿野郎! エッグスだよ。カウントは+12だ」
ドアが開いてミッキーが入ってきた。彼は手を差し出して握手を求めた。
「おめでとう。どんなことがあっても、君は冷静にカウンティングを続けられることを証明したのだ。我がチームへようこそ」