シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

スエリーの青空/ファヴェーラの丘

johnfante2008-08-23

スエリーの青空 [DVD]

スエリーの青空 [DVD]


日本ブラジル交流年


今年は日本ブラジル交流年。
日本人のブラジル移住が始まって百周年にあたり、内外で様々なイベントが開かれる。
移民が多く住むサンパウロ市では「日本映画祭」が開催され、国内では、代々木公園や横浜赤レンガ倉庫でブラジル・フェスタが開かれる予定。
日本での公開が少ないブラジル映画も、新作2本が公開された。


スエリーの青空


スエリーの青空』は北東部のセルタン(乾燥地帯)が舞台。
子連れで帰郷した21歳のエルミーラが再び田舎町から逃げ出したくなり、金を稼ぐために自分の体を景品にして抽選クジを売り歩く姿を描く。
ブラジルの熱帯雨林は有名だが、北東部に広がる荒野はあまり知られていない。
干ばつや飢饉が起きるこの貧しい地域は、昔から逃亡奴隷、山賊、革命家、狂信者集団が逃げこむ無法地帯だった。


グラウベル・ローシャらシネマ・ノーヴォの映画作家は、セルタンの反逆的な伝統や貧困のなかの美しさを描いた。
近年の『セントラル・ステーション』『私の小さな楽園』はそれを癒しの大地として再発見した。
が、『スエリーの青空』はむしろ生半可に貧乏で宙ぶらりんな女を描くことで、現代映画がセルタンから何も汲みだせず、その表面をただ行き来するしかないことを寓意的に表現している。



スエリーの青空
赤ん坊を抱いてセルタンの田舎町に帰郷した21歳のエルミーラ。
金を稼ぐためにスエリーと名を偽り、自分の体を景品にして抽選クジを売り始めるが…。
製作はウォルター・サレス。


ファヴェーラの丘



セルタンの住人は都市へ移住し、ファヴェーラ(スラム)に住み着くことが多い。
黒いオルフェ』のように日頃は貧しい生活を送り、カーニバルになるとそのエネルギーを爆発させる。
また『シティ・オブ・ゴッド』にもあるが、60年代以降はギャングと麻薬売人の温床となった。


ファヴェーラの丘』はリオのスラムの現在を映すドキュメンタリー。
主人公の元売人はギャングと警察の抗争で家族や友人を失い、ファヴェーラを変革しようとする。
ラップで救いがたい現状を訴え、子供のギャング化を防ぐためにドラムやカポエイラを教える彼の姿は、従来のブラジル映画にはない性質のものだ。
貧困を魅力に変えてきたブラジル映画は、社会が比較的平和で豊かになるなかで次に行くべき道を模索中のようである。



ファヴェーラの丘
ギャングと警察が抗争するリオのファヴェーラ(スラム)の今を映すドキュメンタリー。
家族を失った元売人の男が「アフロレゲエ」なるグループを結成。
音楽とダンスの力で平和な社会に変革しようとする。



初出:「週刊SPA!」