シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

Derrida

johnfante2009-04-20

Derrida [DVD] [Import]

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2002年に制作された哲学者ジャック・デリダのドキュメンタリー「Derrida」

デリダの映画


2008年に青土社から出版された書籍『言葉を撮る―デリダ/映画/自伝』には、99年のサファー・ファティ監督のドキュメンタリー作品『デリダ、異境から』のDVDが付いている。
アルジェリア生まれのユダヤ人の哲学者ジャック・デリダを、エジプト出身の女性監督が記録した重要な視聴覚資料となっている。


言葉を撮る―デリダ/映画/自伝


一方、『Derrida』はアメリカのドキュメンタリー作家が制作した映画で、ダイアローグも半分くらいが英語であることが特徴である。
デリダが英語で講義をしたり、インタビューに答えたりする光景が数多く記録されている。
イエール大学デリダの著書に出会ったエイミー・コフマン(Amy Ziering Kofman)が、デリダに関する映像や映画がないことを知り、自ら何年もかけてインタビューやデリダの身辺の撮影をはじめる。


それをドキュメンタリー映画作家のキルビー・ディック(Kirby Dick)と共同で監督した。ディックは難病を患い、マゾヒストとしても知られる詩人・芸術家を追った『ボブ・フラナガンの生と死』(SICK: The Life & Death of Bob Flanagan, Supermasochist 1997)などの映画を作った作家である。
キルビー・ディックは2006年に、全米映画協会が決める映画レーティング・システム(例 PG13=13歳以上は見るべきではない)に、鋭く突っ込む映画『This Film is Not Yet Rated』も制作している。


Derrida


インタビュアーであるエイミー・コフマンの質問はところどころ的外れなところもあるだが、それでもこの映画『Derrida』は貴重な映像を数多くおさめている。
映画はデリダの英訳のテクストの朗読と、デリダへのインタビュー、講演や旅行や私生活のドキュメントから成っている。
家のリビングでインタビューに答えながら、いま撮影していることは虚構であるというデリダ
なぜなら「外出しないときは一日中、洋服に着替えずにパジャマかローブ姿でいるからだ」という彼一流のユーモア。



アメリカの制作者によるドキュメンタリー『Derrida』


あるいは、エイミー・コフマンがデリダに愛一般に関する質問をして、デリダが答えに窮する場面。
その後、デリダは妻と並んで座らされ、出会ったときのエピソードを聞かれる。
妻と出会いやその時期など、事実だけは教えることができると口を開くデリダ
この映画で最も感動的なシーンの1つは、デリダ夫妻が南アフリカへ講演旅行で旅をして、ネルソン・マンデラの入れられていた監獄を訪れる場景かもしれない。
デリダは『この男この国――ネルソン・マンデラに捧げられた14のオマージュ』で、アパルトヘイトマンデラに関する文章を寄せているからだ。
デリダが亡くなった今となっては、このような映像を通して、彼の呼吸や佇まいに触れることができるのは非常に有り難いことである。