シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

This Film Is Not Yet Rated

johnfante2009-05-28

This Film Is Not Yet Rated [DVD] [Import]

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『この映画は年齢制限されていない』(日本未公開)
This Film Is Not Yet Rated (2006) Kirby Dick

カービー・ディック


カービー・ディックというドキュメンタリー映画作家が、ずっと気になっている。
アメリカには、MPAA(Motion Picture Association of America アメリカ映画協会)という組織があり、68年から厳密な規定に則って、レイティング・システム(年齢制限の枠)を管理している。
G(一般映画)、PG(親同伴が望ましい)、PGー13(13歳以下は親同伴)、R指定(17歳以下は親か大人同伴)、NC−17(17歳以下は禁止。X指定・成人映画)である。


これはどこの誰によって、どんな基準で決められているのか?
カービー・ディックの2006年のドキュメンタリー映画『This Film Is Not Yet Rated』は、このシステムに鋭く切り込む作品である。
この映画のように年齢制限の指定を受けなくても、映画は全米で上映できるのだが、実際問題として指定のない映画を映画館は上映しない。
であるから、レイティング・システムは事実上の検閲システムとして機能している。



『This Film Is Not Yet Rated』予告編

レイティング・システム


映画『This Film Is Not Yet Rated』は、レイティング・システムの歴史や不可解な倫理基準に突っ込んでいく。
たとえば、異性間のセックス描写にはゆるいのに、同性愛に関しては厳しいといった具合だ。
これには歴史上の成立の問題もあって、元々は宗教的な圧力団体のやっていたものだったからだ。
MPAAのような組織は、検閲機関を政府の下ではなく、映画産業の下に置くためにこそ作られた。
そして、MPAAの倫理基準やメンバーについては、公表されていない。


カービー・ディックは探偵を雇い、出入りする車のナンバーを撮影し、MPAAのメンバーを特定していく。
同時に、昼休みに食事をする委員会の人間の会話を、盗撮・盗聴して内部の事情を探っていく。
そうすると、カービーにMPAAから圧力をかける電話がかかってくる。
そして、彼は委員のメンバーに任期の制限や子供の年齢の規定があるにもかかわらず、映画を検閲して不当な高給を得ている人間たちを特定し、その実名を映画のなかで公表する…。
闘うドキュメンタリストの側面が強く出た、カービー・ディック監督の傑作。



『This Film Is Not Yet Rated』のすばらしい導入部