シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

リトアニア、そして旧ソ連邦の崩壊 ②

johnfante2009-06-13

Jonas Mekas


ジョナス・メカスの新作「Lithuania and the Collapse of the USSR 」(2008)についての続きです。

フッテージ


気になるのは、どうしてテレビの枠をフレームに入れて撮影しているか、である。
最初のうちは、ABCなどのアメリカの三大ネットーワーク(テレビ放送網)の映像を撮影するために、著作権の問題があるのかと思っていた。
しかし、この映画に使われたフッテージは許可を得たものであるらしく、エンドロールに引用元とニュースキャスターなどの出演者の名前が記されていた。


この映画は、時期的にいえば、89年の末および90年1月のゴルバチョフによるリトアニア訪問から、91年9月のゴルバチョフとブッシュがバルト三国の独立について持った会談のあたりまでをおさめている。
それから映画の完成までに、およそ17年の歳月がかかっているのだ。
本質的なことではないかもしれないが、その裏には、これらのフッテージの使用許可を得るための事務手続きの時間があったのかもしれない。


詩人の指摘


リトアニア、そしてソ連邦の崩壊』を私のとなりで見ていた詩人のS氏が、興味深い指摘をしていた。
(S氏は、1983年にジョナス・メカスが初来日したとき、原美術館のシンポジウムでメカスと同席している。)
彼には、ジョナス・メカスがニュース番組の映し出されたテレビ画面を、執拗に取り続ける「執念」がわかる気がするというのだ。
S氏はアイオワ大学への客員詩人として招かれたときに、亡命ハンガリー人の娘と同棲していたことがあるという。
旧共産圏の小国から故郷を追われて、アメリカへ亡命してきた人々の「執念」は凄まじいと言っていたのが印象に残っている。



基本的には十数年前のニュース番組の映像をつないだものなので、ぼんやりと眺めていても飽きずに見ることができる。
ニューヨーク・タイムスの映画評を参照すると、よく登場しているのは、ニュースキャスターのDavid Brinkley、専門家のGeorge F. Will、それにリトアニア系の大学教授Stanely Valdisといった人たちだという。
アメリカのアンダーグラウンド映画には、たとえばアンディ・ウォーホルの『イート』のように食べ続ける男を撮った映画や、私は未見であるが『エンパイア』のように、延々と8時間もの間エンパイア・ステート・ビルディングを撮り続けた映画もある。
だから、テレビ画面をずっと撮り続けている映画があってもおかしくはない。


しかし、ジョナス・メカスの映画の場合は、それとは少し事情が違っている。
リトアニア、そして旧ソ連の崩壊』には、テレビ・アンテナを動かして、わざと映像にノイズを入れるシーンがある。
ニュース番組だと思って見入っていると、ふいに観客を撹乱し、目を覚まされるようなショットが挟まれている。
この映画にジョナス・メカスが直接登場することはないのだが、時々映る手や声、そしてそのような意図的な行為によって、「一つの世界が終わり、もう一つの世界がはじまるところを見ている男」(「Capturing History With Video of the TV」MANOHLA DARGIS NY times movie review)の存在が示唆されるのだ。