シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

BTK (縛り、拷問し、殺害する) ① 

johnfante2006-07-20

BTK キラー [DVD]

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連続殺人犯の隣に31年住んでいた


 70年代に「BTK」の名を語り、次々と殺人を繰り返した冷酷な殺人魔……。
 大胆にも度々くり返された、警察を嘲笑うかのような声明文。
 しかし辛くも殺人魔は捜査の網の目をくぐり抜けた。


 そしてそれから長い年月を経て、2004年に「BTK」が再び動き出した。
 新聞社に送りつけられた過去の犯罪の告白文。
 だが、それがキッカケとなり、ついに真犯人の正体が暴かれた。
 はたして逮捕のキッカケとなる意外な物証とは何なのか。驚くべき真犯人の素顔とは!?

容疑者の逮捕

 
 カンザス州はアメリカのちょうど中心にある州で、犯罪が少なく平和であることで知られている地域。ウィチタ市はカンザス州の南の方に位置しており、約36万人(2003年当時)という人口は、この州ではもっとも大きい都市となっている。
 2005年2月25日。4人の警察官がウィチタ市にある400人の市民が登録するルーテル派(ルター派)教会に、パトカーがサイレンを鳴らしながら到着したとき、牧師のマイケル・クラークさんはとっても驚いた。それから警察官に事情を聞くと、驚きは心からのショックに変った。
 30年以上もの間、熱心に教会に通い、教会で子供たち相手にボーイスカウトの指導を行ったり、教会教区のなかの信者会の会長を務めていたこともあるデニス・レイダー(59)が、70年代からウィチタ市を恐怖に陥れてきた、連続殺人犯の容疑者として逮捕されたことを知ったからである。


「最初の10分間は、彼ら警官が何を言っているかわかりませんでした」と牧師のクラークさんはいう。「それが本当であるならば、私たちへのとんでもない裏切り行為です」
 クラーク牧師が憤慨するのも無理はない。
 デニス・レイダーが容疑者として逮捕される一週間前、ハッチンソンで行われる宗派の会合に出かけるために、クラーク牧師はレイダーと一緒に車で出かけていたのである。
それだけに留まらず、会合が終わったあとの夜は、教会で開催された聖バレンタインの祝日をいわうための食事会で、クラーク牧師とその妻、デニス・レイダーと彼の妻のポーラ・レイダーは同じ席についていたのだ。

教会と地元をおそった衝撃


 ルーテル派教会の案内係をつとめるボブ・スマイサーさんは、彼の5歳になる息子が家でテレビを見ているときにデニス・レイダーの顔写真がブラウン管に映し出されて、事のあらましを知ったという。
 息子は父親であるスマイサーさんの方を降り向いて、「パパ、こいつは僕たちを騙したんだよね」といった。
「私は息子になんていったらいいのか、わからなかったんです」とスマイサーさんはいう。「それどころか、自分自身をどう納得させたらいいのかさえ、いまだにわかりません」
 ルーテル派教会の掲示板には、世界中からこの教会の信徒たちに対してよせられた励ましの手紙が、スマイサーさんのような人を勇気づけるために数多く貼りだしてある。でも、手紙はいいものばかりではなかった。
「私たちのことを誹謗中傷するような電話や、教会に対して憎悪をぶつけてくる手紙などもたくさんありました」とクラーク牧師は振り返る。中には「どうしてあなたはサタンを教会の一員と迎え入れることができたのか」という痛罵の声もあったという。

BTKは家庭人


 動揺したのは、地元のルーテル派教会の信徒たちばかりではなかった。連続殺人犯の正体を知ったウィチタ市民もそれに劣らないほど驚愕した。
 デニス・レイダーという男は、妻と成人した子供が2人いる、いわゆる家庭人であった。74年、つまり殺害をはじめた年から警備会社に勤務し、警報機の設置や作動の状況などを調べてまわる仕事に従事していた。
 その後、91年には隣のパークシティ市の市職員として法令順守員の仕事をしていた。地域にいる野犬の収容や、市民の迷惑対策などを担当する部署にいたのである。つまり、市民を守る側の人間が真犯人だったのだ。しかも、彼は法令順守員として、偉そうに地元のテレビに出演したこともあった。
 はてして、70年代にウィチタ市やカンザス州のみならず、その残虐さと非情さで全米を震撼した連続殺人事件の全容とはいったい何だったのか?