「ハリウッドランド」の真相 ②

Hollywood Kryptonite

※ジョージ・リーブスの死の謎に迫るノンフィクション

探偵による捜査

しかし、ジョージ・リーブスの自殺を信じない人々もいた。
母親のヘレン・ベッソロ（Helen Bessolo）は警察の捜査に不信感を抱き、弁護士のジェリー・ゲイスラーと探偵事務所のニック・ハリスに相談した。
そして駆け出しの私立探偵ミロ・スペリグリオ（Milo Speriglio）を1日50ドルで雇った。
ミロは警察とは別に独自の捜査を開始し、この事件に深く首を突っ込むことになった。

親しい友人であったノエル・ニールとジャック・ラーソンも、リーブスの自殺が不可解であると考えた。
ニールは言う。
「誰かがジョージを殺したというわけではないが、彼は自殺するタイプではないし、すべて順調にいっていたんだよ。死の2日前に会ったときも、数日後に結婚を控えてとても幸せそうだったんだ」
（下はジョージ・リーブスのトリビュート・ビデオ）

不審な死

探偵ミロの指示で、リーブスの火葬は3年間延期された。
ミロはリーブスの死体を検視したが、新たな手がかりは見つからない。
だが、母親のヘレンは納得しなかった。母親は探偵ミロに話した。
「あたしは一度も、息子がレオノラ・レモンと結婚する予定があるなどという話は聞いていないわ」
探偵ミロはレオノラが怪しい、遺産か保険金目当ての殺害ではないかとにらんだ。
しかし、聞き込みで調べていくと、リーブスがレオノラと結婚することを友人たちに公言しており、ときには「俺の妻だ」と言っていたと判明した。

探偵はリーブスの部屋を詳しく調べ直した。
すると、彼が死んだ寝室の床に、銃弾によってできた穴を2つ発見した。
目撃者たちの証言によれば、銃声は1発であったので、それは証言と矛盾していた。
ミロは婚約者のレオノラと接触した。レオノラはその晩、リーブスと口喧嘩をしていたことが判明している。
寝室で口論になった際に、何かの拍子でリーブスを撃ってしまったという可能性は考えられる。
しかし、彼女は床にできた穴は、数日前に彼女が銃で遊んでいてできたものだと主張した。
銃声が聞こえたときに、彼女は数人の友人たちと1階のリビングにおり、リーブスを撃つことは不可能だった。
そこで、探偵はリーブスの過去を洗うことにした。

リーブスのキャリア

ジョージ・リーブスはアイオワ州の小さな町に生れた。
母親が再婚してカリフォルニアに移り、彼はアマチュアのボクサーになった。
ジュニア・カレッジ時代に演技に目ざめた。
パサデナ市の劇場でキャリアを積み、26歳のときに同じく女優のエレノラ・ニードルスという女性と結婚し10年続いた。
40年代前半にいくつかの映画やブロードウェイに脇役で出演したが、二次大戦に兵士として徴用されてしまった。

戦後、ハリウッド映画界で何とか役をえようともがいた。
50本ほどのＢ級映画に出演し、いくつかの作品ではタイトルロールに名前も出た。
だが、離婚を経験し、テレビ界に移った。
1951年、37歳のリーブスはＭＧＭの社長夫人のトニ・マニックスという45歳の女性と出会った。
夫のエディ・マニックスは60歳。
トニは若い頃は無名のハリウッド女優で、ダンサーだったが、エディと結婚して上流階級の仲間入りをしていた。（一番上の写真はジョージ・リーブスとトニ・マニックス）

エディ・マニックス

彼女の口利きもあってか、リーブスはテレビシリーズ『スーパーマン』のクラーク・ケント／スーパーマン役を射止めることに成功。
リーブスはトニと情事を重ねた。
他に日本人の愛人がいる夫のエディも公認する仲だった。
リーブスとトニは堂々とパブリックな場所で会い、業界内では知らない人間もいなかったが、エディ・マニックスを恐れるため、報道関係者が書き立てることもなかった。

このエディ・マニックスという男が強面で、ハリウッドの黒幕として君臨していた。
彼がＭＧＭのトップにまでのし上がった背景には、ギャングや裏社会とのコネクションがあった。
37年に、最初の妻ベアトリスが自動車事故で亡くなったが、このときには殺人罪で起訴されている。
また映画プロデューサーのポール・バーン(Paul Bern)殺しにも共謀したと訴えられていた。

ウォレス・ビーリー、パット・ディチコ、アルバート・ブロッコリらギャングの3人組を使って、コメディアンのテッド・ヒーリー（Ted Healy）をナイトクラブで殺したときも、黒幕として指示したと言われる。
エディ・マニックスとハワード・ストリクリング（Howard Strickling）は、ハリウッドの歴史上もっとも悪名高いフィクサーとして君臨し、巧みに隠滅工作を図ったことで知られていた。