シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

BTK (縛り、拷問し、殺害する) ②

johnfante2006-07-24

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一家4人殺害


 1974年1月15日、ジョセフ・オテロ(38)と妻のジュリー(34)、そして11歳のジョセフィーヌと9歳のダニエルの一家4人が、カンザス州ウィチタの自宅で絞殺された。
一家は縛られて、猿轡を噛まされていたが、中でもジョセフィーヌの扱いが最も酷かった。裸にされて地下室の天井の下水管に吊るされていたのだ。
 警察は容疑者の似顔絵を公表したが、手がかりは一向に掴めなかった。今だから判ることだが、その似顔絵は似ていなかった。
そして、事件から9ヶ月後、地元の新聞社に犯行声明が届けられた。現場の正確な描写から、犯人が書いたものに間違いないとされた。
彼は自らをBTKと名乗っていた。BTKとはつまり、縛り(BIND)拷問し(TORTURE)殺害する(KILL)の意味である。

連続殺人


 なお、オテロ一家殺害の3ヶ月後の4月4日、BTKはキャサリン・ブライト(21)を刺殺していたが、当時はBTKの犯行であるかは不明であった。
 BTKはしばらく沈黙していたが、1977年3月18日、主婦シャーリー・ヴィアン(26)が絞殺された。意外にも、犯人は3人の子供には手を出さなかった。
 兄弟のうちの1人、スティーブ・レルフォードは次のように語っている。
「『両親はいるか?』と聞かれて『お母さんがいる』と答えたら、そいつがいきなり家に入ってきたんだ。母は裸にされて、両手を後ろ手に縛られた。そして、頭にビニール袋をかぶせて、ロープで首を絞めたんだ」
 スティーブはその後2年間、誰とも会話をすることが出来なくなったという。

 77年12月9日、自宅にてナンシー・フォックス(25)は、服は来たままナイロンのストッキングが首に巻きつけられて窒息死していた。
 BTKが彼女を絞殺した時には、大胆にも自ら警察に通報していた。
 そして2ケ月後、地元のテレビ局に再び犯行声明を送りつけた。
「俺は自分自身をコントロールできないんだ。怪物が俺の脳ミソに入ってくると、何が何だか判らなくなる。あんたたちなら奴を止めることができるかも知れない。俺には無理だ。奴は既に次の犠牲者を決定した」
 ウィチタ市はパニックに見舞われた。
 しかし、BTKの犯行は7件の連続殺人で終わったかに見えた。そして長い間、ウィチタ市近郊で起きた未解決の連続殺人事件として、人々の語り草になっていた。
 77年の事件を最後に沈黙した「BTK」。このまま殺人魔による快楽殺人事件は未解決に終わるのか、と誰もが思っていた。しかし2004年になり、ふたたびBTKが動き出したのである!

自己顕示欲の強い殺人者


 2004年3月、ウィチタの新聞社宛てにBTK名義の犯行声明が手紙で送りつけられた。
 そこには衝撃的な事実が記されていた。
 なんと、86年9月16日に起こったビッキー・ウェガリーが絞殺された事件も彼の犯行だったというのである(当初、ビッキー・ウェガリーの殺人はBTKとの関連性が指摘されていなかった)。
 手紙にはビッキーの免許証のコピーが同封されていた。
 2004年12月、今度はウィチタ市内の公園でナンシー・フォックスの免許証が発見された。
 しかも、BTKはまるで警察を挑発するかのように、免許証のそばに不気味な人形を残していた。その人形は、彼が今まで殺してきたのと同じやり方で、つまり後ろ手に縛られ、頭にビニール袋をかぶされていたのである。
 ナンシー・フォックスは77年にBTK自らが警察に通報した時の犠牲者である。その免許証を持っているのはBTK本人以外にはあり得なかった。
 カンザス州警察はこの挑戦を受けて、一連の事件で犯人が残した体液と、めぼしい人物ら数百人のDNAサンプルを照合はじめ、本格的な再捜査に乗りだした。

殺人魔は自ら逮捕された?

 
 異常性の極みはBTKが作ったパズルである。
 彼はその後、地元のテレビ局に不可解な文字の羅列を送りつけた。そこには様々なキーワードが隠されていたが、なんと、BTKの本名「RADER」まで隠されていたのである。
 これはもちろん、デニス・レイダーの逮捕後に判ったことである。
 突如動き出した殺人魔、「BTK」。
 だが、そんな彼の正体は、ひょんなことから暴かれることとなる。それは……一枚のフロッピーディスクによってだった。
 彼がテレビ局に送りつけたディスクに、それを書き込んだコンピューターの情報が残されていた。捜査の結果、それは市内のルーテル派教会が所有するものであることが判明した。
 そして、ここに通う教会員のデニス・レイダーが容疑者として浮上し、逮捕されたのである。

 レイダー容疑者には妻と2人の子供がいる。デニス・レイダーの逮捕にもっとも驚愕したのは、地元市民でも、ルーテル派の教会員でもなく、彼の家族であっただろう。
 CNNニュースが報じたところでは、捜査当局は少し前にデニス・レイダー容疑者の娘から、彼の毛髪などを提供してもらっていた模様である。これらはDNA鑑定にまわされ、最終的にレイダー容疑者を逮捕する大きな決め手となったようだ。
 こうして31年間野放しにされていた異常な殺人魔は、周囲にただならぬ衝撃と心の傷を残して逮捕された。