シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

キューブリックになった男 ①

johnfante2006-11-01

『カラー・ミー・キューブリック


仮題は「キューブリックと呼んで」(Colour Me Kubrick
監督はキューブリックの「アイズ・ワイド・シャット」のスタッフを
務めたブライアン・W・クック。主演はジョン・マルコヴィッチ
実在したキューブリックの偽者を描いた風変わりなコメディ。
2004年イギリス映画。日本では未公開。



偽者あらわる!


1993年7月3日の晩、ロンドンのレストランでの出来事。
そこは、ショービジネスに精通する人々で、テーブルが満席になっていたコヴェント・ガーデンであった。
4人の男がテーブルに座っており、その中の1人がウェートレスに、自分は映画監督のスタンリー・キューブリックだが、ニューヨークのアクセントで話せるかと尋ねた。
彼女がやってみせると、男は次回作に出てみないかと誘い、自宅の電話番号をおしえた。
ウェートレスは不審に思ったが、一緒にいたのが英国議会の議員だったので信用した。


さらに男は、隣のテーブルにニューヨーク・タイムスの有名な演劇評論家や、ワシントン・ポストの文芸欄の記者がいると知ると、彼らの批評が気に入らないと文句をつけ始めた。
キューブリックがマスコミの前に姿を現わすことは滅多にないため、記者たちはびっくり仰天した。
彼らは本物のキューブリックの写真を見たことがあるはずだった。
しかし、彼らでさえも、偽者の芝居に騙された。


スタンリー・キューブリック―写真で見るその人生

スタンリー・キューブリック―写真で見るその人生


評論家や記者たちは、その男に質問を浴びせかけたが、キューブリックと名乗る男はそれには答えず、後日インタビューに応じる約束をして、その場を去った。
しかし、記者がワーナー・ブラザーズへ問い合わせてみると、その男はキューブリックではなく、真っ赤な偽者だったことが判明した。
男と一緒にいた議員はコメントを拒絶している。
手の込んだ詐欺まがいか、単なるいたずらであったのか。


偽者の正体は?


結局、1996年のヴァニティ・フェア誌の記事により、「キューブリック」の偽者はその仮面を剥がされた。
元旅行代理店員である、ロンドン在住のアラン・コンウェイという男だった。
コンウェイは「ライイング・ゲーム」(The Lying Game)というテレビ番組に出演し、彼がキューブリックを偽装していた事実を認めたという。


アラン・コンウェイという男は、上記のように、長い間「スタンリー・キューブリック」として、外で食事をしたり、著名人が集まるパーティに顔を出したり、人々と付き合いを続けていた。
その期間は、90年代前半〜96年くらいまでの間だと考えられる。しかし、彼の正体は、ハロウにある旅行代理店で働く普通の男であった。


スタンリー・キューブリック ドラマ&影:写真1945‐1950

スタンリー・キューブリック ドラマ&影:写真1945‐1950


90年代前半、アラン・コンウェイはロンドンに住んでおり、周囲の人々に、自分はスンタリー・キューブリック(「2001年宇宙の旅」「博士の異常な愛情」「時計仕掛けのオレンジ」などで有名な、アメリカの映画監督)であると名乗っていた。
不思議なことに、コンウェイはイギリス人である上に、キューブリックのトレードマークである髭も生やしておらず、2、3本のキューブリック映画を見たことがあるだけで、彼の映画の大ファンというわけでもなかった。
それでもコンウェイは、自分が毛ぶかいアメリカ人映画監督であると、いろいろな著名人を納得させた。


コンウェイは「キューブリック」として、グルーチョ・クラブという高級レストランや、他の会員制のナイトクラブに出入りしていた。そこでは、慎重に振る舞い、現金を払ったり、小切手に署名をしないように気をつけていた。
コンウェイはナイトクラブの舞台裏へ行き、ジュリー・ウォータースとパトリシア・ヘイズという女優たちに、彼女たちを映画のなかで起用することを考えていると言ったりした。
コンウェイのことを、世界的に有名な映画監督だと信じたのは、彼女たちだけではない。
その場にいた、元国会議員のファーガス・モンゴメリー卿や、光のイリュージョニストとして知られる、歌手のジョー・ロングソーンも同様であった。


映画監督 スタンリー・キューブリック

映画監督 スタンリー・キューブリック



EYES WIDE OPEN―スタンリー・キューブリックと「アイズワイドシャット」

EYES WIDE OPEN―スタンリー・キューブリックと「アイズワイドシャット」


ザ・コンプリート キューブリック全書

ザ・コンプリート キューブリック全書


アイズワイドシャット (角川文庫)

アイズワイドシャット (角川文庫)