シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

ゾディアック ①

johnfante2007-05-01

ゾディアック 特別版 [DVD]

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デイヴィッド・フィンチャー監督版の『ゾディアック』が公開される。
ここで描かれるのは、新聞記者、漫画家、刑事など4人の男たちの姿。いずれも、この事件の謎に魅了され、事件にのめりこんでいって人生を狂わされた人間だ。
『ダーティー・ハリー』('71)のサソリ座の男を名乗る犯人や、『エクソシスト3』('90)の双子座殺人鬼はゾディアックがモデルだった。
近年、この事件の映画化が何度も試みられており、舞台をフランスに置きかえた『ゾディアック 〜十二宮の殺人〜 』('04)、ゾディアックの模倣犯を描いた『ゾディアック・キラー』('05 ウーリー・ロメル監督)、それに事件を刑事の視点から再現した『ゾディアック』('05 アレックス・バークリー監督)がある。


音楽シーンにも強い影響を与えており、ファスター・プッシーキャットは「ボディ・シーフ」、スレイヤーは「ジェミニ」という曲を書いている。サンフランシスコ出身のゾディアック・キラーというパンク・バンドがあるし、ゾディアックという名前のヒップホップ・アーティストもいる。
ゾディアック事件のなにがそんなに興味深いのか。
それは「未解決のミステリー」であるがゆえに、謎が謎を呼び、事件に対して推理を働かせる自由が許されているからだろう。



『ゾディアック』予告編


連続殺人の序章


ゾディアックと名乗る連続殺人鬼が、西海岸のサンフランシスコ周辺を恐怖に陥れる以前のこと。1966年10月30日、チェリ・ジョー・ベイツという18歳の女子大生が殺害されていた。
南カリフォルニアのリバーサイド市シティ・カレッジの図書館横の駐車場で、喉と胸のあたりを何度もナイフで刺されて、惨忍に殺された。現場に残された痕跡から、暴行目的でも強盗目的でもなかった。


その年の11月29日、リバーサイド警察署と、リバーサイド市の新聞社「デイリー・エンタープライズ」社に、「告白文」と題された手紙が送りつけられた。タイプライターで打たれたものだった。先日の女子大生殺しをほのめかす文章と、この先、犠牲者が増えるだろうという脅迫が書かれていた。
ベイツ殺害のちょうど6ヵ月後、警察署と新聞社「リバーサイド・プレス」と犠牲者の父親は、ノート用紙に鉛筆で書かれた手紙を受け取った。「ベイツは死ななくてはならなかった 犠牲者はもっと増えるだろう」と、それには書かれていた。
この事件が後に連続して起こる、ゾディアックによる連続殺人の序章であったと考えている人間は少なくない。 


カップルを連続殺害


1968年12月から、69年10月までの約10ヶ月間に、ゾディアック(占星術用の黄道十二宮の意)は、判明しているだけで5人を殺害し、2人に怪我を負わせている。


最初の犠牲者は、68年の12月10日に殺された。
サンフランシスコ近くのヴァレホ近郊を、車で運転していた婦人に発見された。ワゴン車が駐車しており、そのそばに2人の死体が転がっていた。
警察は現場に急行した。10代の少年が、車の近くで倒れて死んでいた。左耳のうしろから撃たれてた。少し離れたところに、女の子の死体が転がっていた。彼女は背中を数回撃たれていた。そこは殺人者から逃げようとした位置だった。
死体は高校生のデイヴィッド・ファラディと、ベティルー・ジェンセンと確認された。現場はラバーズ・レーン(恋人の小道)として知られている場所。少年の財布は手付かずでポケットに残っており、女の子に対しても暴行の形跡はなく、殺人の動機は見当がつかなかった。


69年7月10日、どら声の男からヴァレホ警察署に電話がかかってきた。
「人殺しを2つ教えてやろう。コロンバス・パークウェイを東に、公園へ向かって1.6キロほど行ってみろ。そこで茶色の車をのぞいてみな。ひよっこが2人死んでいるはずだ。やったのは9ミリのルーガーでだ。それから、おれは去年もひよっこを殺している。じゃ、あばよ」

 
警察はその男が指定した場所で、男女が発見された。男のマイケル・マゴーは重傷、女のダーレン・フェリンは死んでいた。
後にマゴーは警察で次のように説明。2人で駐車場に乗り入れたところ、一台の車が滑ってきて、自分たちの横に停車した。その車はすぐに走り去ったが、十分ほどして戻ってきた。誰かがライトを照らした。目がくらんだ。その男はものも言わずに撃ちはじめた。
犯人は太っており、中背、丸顔、ちじれた髪、年齢は25歳〜30歳の間。殺人者の車が猛スピードで逃げるのを見た目撃者もいた。車を斜め後方に停めるやり方、ライトを当てて、目くらましとする方法などが、あまりにも警察の方法と酷似していたため、当初は警察関係者かという推測もよんだ。


殺人鬼の手紙


69年8月1日、ヴァレホの「タイムズ・ヘラルド」社と、サンフランシスコの2つの新聞社に、手紙が送りつけられた。丸の上に十字のマークがあった。ゾディアックの印だ。手紙には犯人しか知らない殺害の細部が書かれており、数行のコードか暗号のようなものがあった。署名者によれば、3通の手紙の暗号を組み合わせると、差出人が誰か分かるはずだとあった。
その男は手紙を公開しないと、おれは頭にくる、めちゃくちゃする、十人以上は殺すと脅迫していた。暗号の専門家の解読によると、次のようになった。


《オレハ人間ヲコロスノガ好キダ スゴク面白イ 森デ野生ノ動物ヲコロスヨリズット面白イ 人間ガイチバンキケンナ動物ダカラダ ダレカ殺スノガ一番ゾクゾクスル経験ダ 女ノ子トヤルヨリズットイイ イチバンイイコトハオレガ死ンデパラダイズデ生マレカワッタトキ オレガコロシタニンゲンヲゼンブ奴隷ニデキルコトダ オレハ名前ナンカオシエナイ オマエタチガジャマシテ オレノ死後ノ奴隷ノカズヲヘラソウトスルカラダ》


各紙で公開すると同時に、「犯人の身元がわかった」と千人以上から反響があった。だが、犯人への手掛かりは見つからなかった。



実録!!ゾディアック ~血に飢えた殺人鬼の刻印~ [DVD]

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