モーリス・ブランショ ①
2003年2月24日、モーリス・ブランショはパリの自宅で死去した。
95歳。20世紀フランスを代表する作家、批評家で、写真一枚公表することのなかった孤高の「顔のない作家」。
1930年代に右翼の論客として出発し、戦後は生身の自分を消し、作品だけを公共の場にだすという姿勢をつらぬいた。
『望みのときに』(小説)、『焔の文学』(文芸批評)、『明かしえぬ共同体』(共同体論)など多岐にわたる重要作を通じて、世界最高峰とうたわれる書き手の文章をじっくりと堪能したい。
- 作者: モーリスブランショ,Maurice Blanchot,西谷修
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1997/06/01
- メディア: 文庫
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明かしえぬ共同体
『明かしえぬ共同体』は、政治的発言から撤退したブランショが、1983年に発表した問題の書である。
共産主義やフランスの五月革命から語り起こし、バタイユの共同体への試みやデュラスの愛の作品を論じながら、20世紀を貫いた共同体への思考がなんであったのかを問い直す。
「共同体とは、それが偶然によってではなく親愛の心として、彼を孤独にさらすその在り方なのだ」
30年代に右翼のジャーナリストであったブランショは、自分の過去を封印して文学に転じて以来、みずからの政治体験については沈黙を守ってきた。
ところが、ジャン=リュック・ナンシーによる画期的なバタイユ論『無為の共同体』が発表されると、それに触発されて、1983年に突然、政治色の濃い本書を発表した。
バタイユとブランショ
ジュルジュ・バタイユはブランショの友人であり、30年代にシュルレアリストや極左のグループ、秘密結社のうちに共同体の幻影を求めては挫折をくり返した。
結局、バタイユは孤独な内的体験に恍惚を見いだしたが、ブランショによれば、それがすなわち共同体を断念したことにはならない。
バタイユはファシズムや共産主義といった、国家や民族という単位に収束してしまう共同体をあきらめただけで、共同体の不在はバタイユに苦悩にみちた夜のコミュニケーションである「書くこと」を要請し、別次元での共同性の開示をせまった。
それが、孤独を生きることを前提とする文学空間だったのだという。
『明かしえぬ共同体』に併録されている「恋人たちの共同体」は、マルグリット・デュラスの愛の作品『死の病い』を論じたものだ。
ここでブランショは、ふたりの男女が触れあうたびに埋めようのない差異をきわ立たせ、絶対的な他者でしかないと思い知らされるような地平に「共同体をもたない人びとの共同体」の可能性をみようとしている。