シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

ショックメンタリー ②

johnfante2008-07-14

リトビネンコ暗殺

いのちの食べかた


一方で、ショックメンタリーには皆が顔をそむける「本当の話」を暴露する傾向もある。


いのちの食べかた』は鶏、牛、豚、魚といった現代人の主要な食物が、どのように生命を奪われ、袋詰めにされて食卓まで届くのかを淡々と見せる。
プロイラーや屠殺工場は最先端の機器でオートメーション化され、人間が直接手を下す必要は最小限に抑えられている。
清潔で高性能なマシーンが映画の主役であり、それらが次々と生き物を解体する様はSFのディストピア世界のようだ。



いのちの食べかた』予告編


『暗殺 リトヴィネンコ事件』は秘密警察を操るロシアのプーチン大統領が、権力と財産を守るべく極悪非道をくり返している事実を告発する。
両方の映画に共通するのは、昔ドイツ国民の無関心がナチスの台頭を許したように、それらを人々が放っておくと、いつかは手をつけられなくなるという問題提起の仕方である。



『暗殺リトビネンコ事件』予告編


検閲と自粛


放送禁止歌 (知恵の森文庫)


その名も『いのちの食べかた』という本を出した森達也には『放送禁止歌』という著書がある。
それによれば、法的に放送禁止用語を定めるアメリカに対し、日本には「放送禁止」は存在しないという。
BPO映倫は法的拘束力を持っていないのだ。
国内最大のタブーは今も天皇被差別部落で、それに触れる言葉は放送局が放送自粛用語として設定する。


テレビやラジオは公共放送で勝手にお茶の間に入るから検閲があり、映画は観る人の自己責任だから圧倒的な自由が許される。
もっとタブーに挑戦する映画が増えるといいが、タブーがタブーでなくなれば刺激が薄れてつまらなくなるから、これはこれでまた問題だ。


ショックメンタリーの映画


バス174 スペシャル・エディション [DVD]
『バス174』(’02) 監督/ジョゼ・パジーリ
2000年にリオデジャネイロで発生して、ブラジル全土がTVの生中継を見守ったバスジャック事件。
映画は貧困問題とブラジルのストリート・チルドレンの問題を鋭くえぐる



ロバート・イーズ/ROBERT EADS [DVD]
『ロバート・イーズ』(’02) 監督/ケイト・デイヴィス
女性から男性へ性転換したロバート・イーズは、老年になり過去の遺物である子宮が末期癌に侵される。
反対に男から女へ転換した恋人のローラは、献身的に世話をするのだが…



ジャマイカ楽園の真実 LIFE&DEBT [DVD]
『ジャマイカ楽園の真実』(’01)監督/ステファニー・ブラック 原作/ジャメイカ・キンケイド
フリーゾーンと呼ばれる経済特区において、ジャマイカ人労働者を低賃金で使い、構造的に搾取するNIKEなどグローバル企業の悪徳の数々を描く。 ※レゲエ映画ではない



SEX アナベル・チョンのこと [DVD]
『SEX アナベル・チョンのこと』(’99) 監督/ガフ・リュイス
10時間で251人の男性と連続セックスし、ギネス記録を打ち立てた女子大生・ポルノ女優のアナベル
記録樹立時の映像を交えながら、彼女の半生を写しだす人物ドキュメント



死体解剖医ヤーノシュ~エデンへの道~ [DVD]
『死体解剖医ヤーノシュ 〜エデンへの道〜』(’95) 監督/ロバート・エードリアン・ペヨ
皮を剥き、骨を切り、肉をめくる本物の解剖シーンを満載し、ブタペストの死体解剖医の日常を描く。
魂の存在を信じて、遺体に最大限の敬意を払おうとする彼の姿には感動する



ハーヴェイ・ミルク [DVD]

ハーヴェイ・ミルク [DVD]

ハーヴェイ・ミルク』(’84) 監督/ロバート・エプスタイン
ミルクは全米で初めて、ゲイだとカミングアウトした上で選挙によって選ばれた公職者。
映画はマイノリティ差別撤廃を訴え、同僚の男に暗殺されるまでの彼の活動を追っていく



アトミック・カフェ【字幕版】 [VHS]
アトミック・カフェ』(’82) 監督/ケヴィン・ラファティ
冷戦期アメリカの原爆や共産主義に関するプロパガンダ・フィルムを皮肉たっぷりにコラージュし、マイケル・ムーアにも影響を与えた反米映画。
ブッシュ大統領の従兄弟が監督



グレートハンティング [DVD]

グレートハンティング [DVD]

『グレートハンティング/地上最後の残酷』(’75)監督/アントニオ・クリマーティ、マリオ・モッラ
人間から動物までを「狩る者と狩られる者」の観点から考察するドキュメントの体裁をとるが、実際はライオンが人間を狩るシーンなどにヤラセを含むモンド系のキワモノ映画



初出:「週刊SPA!」