シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

モレキュラーシアター


海外で多くの公演を重ねている、モレキュラーシアターの東京公演のご案内です。
11月7日(金)〜11月9日(日)まで、「ベケット東京サミット」以来3年ぶりとなるモレキュラーシアターの東京公演 「ILLUMIOLE ILLUCIOLE」が行われます。
会場は、月島の倉庫を改装した現代美術のギャラリーとして有名なTEMPORARY CONTEMPORARYです。


「ILLUMIOLE ILLUCIOLE」 公式サイト http://www.hi-net.ne.jp/icanof/
モレキュラーシアター 公式サイト http://sites.google.com/site/moleculartheatre/Home


モレキュラーシアター


モレキュラーシアターは青森県八戸市に拠点を置くパフォーマンス・グループです。
日本の劇団としては海外公演の数が図抜けて多く、世界で11もの芸術祭で招待公演をこなし、海外からの注目度も高いことで知られています。
90年代には「弘前劇場」とならんで、日本の現代演劇の最前線が東北に集中していることが、驚きと危機感をもって伝えられたといいます。



モレキュラーシアターの主宰は「東北のガタリ」の異名をとる、精神科医にして演出家の豊島重之氏。
演出家の豊島氏は、八戸のアート集団「ICANOF」の首謀者としても知られています。
今回の公演「ILLUMIOLE ILLUCIOLE」は、メイエルホリドとジャン・ジュネのテクストからの引用が使われるようです。
また、劇団の公式ページに、本公演に向けた豊島氏のテクスト「演劇のアポトージス」が公開されています。
http://sites.google.com/site/moleculartheatre/text/apoptosis1


叙事的演劇


モレキュラーシアターの最大の特徴は、「上演のためのテクストを自分では書かず、きまって誰か他者のテクストをパッサージュ=引用することに定めている」ところにあるといえます。
ですから、演出家は公演の事前に戯曲ではなく、「演劇のアポトージス 第一章」(初出:『映画芸術』1997年)という思考がおりなすテクストを大幅に改稿して己の思考を辿り直しています。
それによれば、豊島氏はブレヒトの提唱する「叙事的演劇=Epic Theater」を「写真の露光におけるクリック音」に結びつけています。
ドイツの批評家のヴァルター・ベンヤミンは、抒情的演劇というのが観客の感情に訴えるものであるのに対し、「叙事的演劇」は事実をありのままに見せることで、観客に少し距離をおいた理性や批判性を求めるといっています。
たとえば『ベンヤミン著作集9 ブレヒト』の「叙事的演劇とはなにか」(1939)で、ベンヤミンはこんなことを言っています。



《叙事的演劇が観客とする公衆の特質、つまりくつろいだ関心は、かれらの感情移入能力への訴えがほとんどなされない、というところから生まれる。叙事的演劇の技巧は、感情移入ではなくむしろおどろきを、よびさますことである。》


つまり、モレキュラーシアターの演劇的な主眼は、物語的なテクストを引用して場面を演劇的に再現することよりも、断片的な引用のテクストを使うことで「写真の露光におけるクリック音」のような、叙事的演劇による驚きを観客に呼び覚ますところにあるといえるでしょう。
「演劇のアポトージス 第二章」では、その驚くべき実践方法がわずかながら明かされています。
それは「今作のリハーサルが引き続く中、亀山郁夫著『大審問官スターリン』を女優陣と読み合わせした」ということです。
つまり、引用するメイエルホドの断片の裏にある歴史認識までをも、徹底的に演劇の身体であるところの女優たちに植えつけるところからはじめているのです。
そのことが「ILLUMIOLE ILLUCIOLE」の舞台において、「革命演劇の遂行者メイエルホリド」の言葉をつむぎながら(ジャン・ジュネの言葉と響きあいながら)、どのようなパサージュを開いていくのか注目したいところです。


公演情報


「ILLUMIOLE ILLUCIOLE」
日 時: 2008年11月 7日(金)ソワレ開場18時半 開演18時45分
8日(土)ソワレ開場17時半 開演17時45分
9日(日)マチネ開場13時半 開演13時45分


会 場: TEMPORARY CONTEMPORARY
中央区月島1-14-7 旭倉庫2F 会場TEL 03-3533-0880
有楽町線大江戸線 月島7番出口 隅田川方面へ徒歩2分。旭倉庫駐車場(御利用できません)右のエレベーターで2F会場へ。


各 日: 2500円 (トーク&レセプション含む/先着80名限定につき、事前申し込み受付中)

助成:芸術文化振興基金 supported by Japan Arts Fund



演出・構成・美術: 豊島重之 directed/scenographed by TOSHIMA Shigeyuki
テクスト:フセヴォロド・メイエルホリド『メイエルホリド・ベストセレクション』
   (桑野隆・浦雅春ほか訳、作品社刊)よりの断章
   ジャン・ジュネ『シャティーラの四時間/アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』
   (鵜飼哲訳、現代企画室ほか刊)よりの断章


出演: 大久保一恵・苫米地真弓・田島千征・四戸由香・秋山容子・高沢利栄
舞 台・照 明・音 響: 宮内昌慶・豊島圭佑・高田章伍
映 像: 佐藤英和
グラフィック: 佐々木遊


アフタートーク


◆アフタートーク《ハエのための演劇をめぐって》(同会場・各上演終了後)
guest lecturers:SUGA Hidemi, INAGAWA Masato, UKAI Satoshi, SEO Ikuo, OTORI Hidenaga, & others


7日(金)
19時40分〜21時10分 『汚辱にまみれた生の演劇をめぐって』
講師:絓秀実(文芸批評家) 稲川方人(詩人)/司会:鴻英良・豊島重之


8日(土)
18時40分〜19時10分:鵜飼哲講演 『歓待と不同意のキワ』
19時15分〜21時 『残余の演劇と演劇の残余をめぐって』
講師:鵜飼哲(フランス文学・思想)、鴻英良(演劇批評家)/司会:豊島重之


9日(日)
14時40分〜16時半 『ハエのための演劇をめぐって』』
講師:瀬尾育生(詩人) 鴻英良(演劇批評家)/司会:豊島重之