シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

ICANOF 写真集

johnfante2008-11-06

右写真は、「68-72 *世界革命*展」の図録=写真集


いよいよ明日から、モレキュラーシアターの東京公演です。
モレキュラーのメンバーの一部は、夏の「68-72 *世界革命*展」でご一緒したアート集団ICANOFのメンバーです。
夏のICANOF展について新聞に書いた展評を採録しておきます。

八戸でICANOF展


八戸市美術館にて『68-72 *世界革命*展』が開催中である。
八戸市を拠点にする市民アート集団ICANOF(キュレーター 豊島重之氏)による8年目の企画展は、今回「写真映像展」に特化され、国内外で活躍するアーティストの作品を一堂に集めている。


先日の秋葉原の通り魔事件では、青森高校卒の容疑者の人物像が格差社会の構図で語られ、岩手北部地震では真っ先に核関連施設に影響がないと発表された。
マスメディアが権力装置として世論形成を決定づける中で、私たちに求められるのは、写真や映像などの情報の氾濫を批判的に見る目である。
同展はそのような現代社会に対するアート側からの応戦だといえる。


現場の声を発する写真


美術館一階を、三戸町出身の月舘敏栄による仙台の東北大解放闘争と、比嘉豊光による沖縄の反本土復帰闘争の写真ドキュメントが天井から床まで壁全体を埋め尽くす。
’68年から’72年の激動の時代を月舘と比嘉が当事者の目で撮影したためか、写真の一枚一枚が熱っぽい現場の声を発し、膨大な物量としての写真群がざわめきとなって鑑賞者に迫りくる。



この現場性こそ現代メディアが損なったものの一つだが、二階を占拠する北島敬三の『USSR*1991』シリーズは、さらに被写体との関係に意識的である。
北島がソ連崩壊直後に現地で撮った労働者、政治家、軍人、司祭らの肖像写真は、意図的な紋切り型のスタイルを使ってその人物の社会的地位を指し示す。
人間の生を鋳型に押しこめる社会の怖ろしさを浮き彫りにすると同時に、写真メディアが本質的に持つ暴力性をも明らかにしている。


未来へと続く幕切れ


国家やマスメディアなどの大文字の権力に対抗する文化が形成されたのは’60年代後半のことであり、個々人の争闘は現在も続いている。
7月25日から3日間行われた「全国フォーラム」では評論家の絓秀美、鴻英良、詩人の稲川方人らが、万博、収容所、天皇制といった国家権力と芸術家の問題に関する過激なトークを行った。


そして講師陣と出品者の議論の中で、八戸というコミュニティから現代社会へ発信する何らかの提言がまとまる見込みだった。
だが、批評を嫌うアーティストと講師陣の間で交戦状態となり、また世代間や出身地域別による応酬もあり、フォーラムは3日目に空中崩壊した。
まさに現在進行形で変革の可能性を語る集まりにふさわしい、未来へと開かれた幕切れであった。


初出:「東奥日報」2008年8月16日



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http://www.hi-net.ne.jp/icanof/html/publication/catalog/order.html