シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

クロード・レヴィ=ストロース

johnfante2008-12-09

サンパウロへのサウダージ

サンパウロへのサウダージ


去る11月28日に文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースが100歳の誕生日をむかえた。
さまざまなイベントやブックフェアが行われているが、本書には別格の趣がある。
右写真が原書の「Saudades Do Brasil」

レヴィ=ストロースと写真


サンパウロへのサウダージ』は、そのレヴィ=ストロースと今福龍太氏の共著といえる書物=写真集。
本書に収められた今福訳の「サンパウロサウダージ」には、27歳で若き人類学者としてブラジルへ渡ったレヴィ=ストロースが撮影した写真と、それに関する文章がおさめられている。
47ページの父親レーモンがカメラを構えているところを、当時住んでいた家と一緒に撮ったショットなどが印象に残る。



アマゾンの奥地でフィールド・ワークしていた頃のレヴィ=ストロース


「ブラジルから遠く離れて」という対談では、小説『マクナイーマ』を書いたマリオ・ジ・アンドラージとの交友などが語られている。
『マクナイーマ』は1969年に、ジョアキン・ペドロ・デ・アンドラーデによって映画化されている。
そして、今福龍太による「時の地峡を渡って」。今福はレヴィ=ストロースが撮影した場所を2000年に遊歩し、同じ場所で再撮影していった。
意外なことに、半世紀以上経ったサンパウロという巨大都市の風景の変化よりも、マルティネッリ・ビルややしの木などの変わらない物へと目が行く。
何かを写そうと身構えない今福の自然体の写真は、レヴィ=ストロースのそれと姿勢が近いものがある。

本の解説(全文引用)


1935年、27歳のC・レヴィ=ストロースは新設のサンパウロ大学に招かれて、ブラジルの地に降り立った。
レヴィ=ストロースのブラジルでの軌跡は、当時急速に勃興していた都市サンパウロと、消滅の危機に瀕する奥地の先住民社会とのあいだを往復するものだった。
この往還の日々、彼はライカを手にサンパウロの街区を遊歩し、都市の日常をスナップ写真に収めた。
新興の熱気に溢れていたはずの都市は、どこか寂しげな気配を纏っている。
それらの映像が写真集『サンパウロへのサウダージ』としてブラジルで刊行されたのは1996年。撮影からじつに半世紀以上の時を経ていた。



フィールド・ワークの対象だったボロロ族


2000年、ひとりの人類学者がサンパウロに降り立ち、レヴィ=ストロースの足跡を辿りはじめた。
サンパウロへのサウダージ』に導かれ、今福龍太はカメラを手に時の微細な痕跡に眼を凝らした。
街路から立ち現れたのは、喪失と憧憬の感情「サウダージ」だった。
このサウダージの感触を手がかりに、今福はレヴィ=ストロースの写真の謎へと分け入っていく。
写真を媒介に時の地峡をわたり、人間の悲嘆と輝きとを幾重にも露光する、ふたりの人類学者の深い共鳴の書物。
みすず書房HPより引用)


港千尋氏による書評エッセイ
http://www.msz.co.jp/news/topics/07351.html


レヴィ=ストロースの庭

レヴィ=ストロースの庭