シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

パラサイトの脅威 ①

johnfante2009-09-05

どんな生き物にも寄生生物は宿る。人体も例外ではない。
そして我々の体に住み着いたちっぽけな生物が、時に最悪の事態を招くこともあるのだ。


鼻孔に住み着いたヒル


旅行ライターのブロートン・コバーン(Broughton Coburn )も寄生生物と遭遇し、恐怖を味わった1人だ。


ネパールでエベレストから下山した後のことだった。
ある日町中を自転車で走っていたコバーン氏は、ふと自分の鼻の先に何かが見えた気がした。
だがそれ以外には何も感じなかったため、気になりながらも喫茶店に入って休むことにした。
紅茶を注文し・・・やがてやって来たウェイターは、彼の鼻を見るなり逃げ出してしまう。逃げる彼を捕まえて、「何を見たんだ!?」と聞いても、ウェイターはコバーン氏の顔から目をそむけるだけ。


仕方なく急いで家に帰ったコバーン氏は、鏡に向かった。すると・・・
「あろうことか茶色いミミズかウナギのような生き物が、私の右の鼻孔から頭をのぞかせたんです。先に眼のようなものがついており、数センチ頭を出してからまた引っ込みました。幻覚か何かだと思いましたね」 
パニックに陥ったブロートンは病院に駆け込んだ。
診察室で例の生き物がまた頭をのぞかせると、するとそれまで冷静だった医者がものすごい形相になって叫んだ。
ヒルだ!」


それは水生のヒルだった。
ヒルは、一度に自らの体重の3倍もの血液を吸うのだが、傷から麻酔物質を注入するため、吸われた方は何も感じないのだ。
さっそくコバーン氏の鼻からヒルを取り出すことになったのだが、これが大仕事だった。
医者がヒルの端をつかみ、コバーン氏は体が動かないよう診察台にしがみつく。
そして医者がヒルを両手で引っ張り始め・・・鼻先から出たヒルは伸びに伸びて20センチにもなった。
医者の顔には恐怖の色が浮かび、奮闘の末にやっと抜けたのだという。
ヒルはブロートンが渓流の水を飲んだときに鼻に入り込んだものと思われる。
そしてそこは、ヒルにとって温かく安全で、実に快適な住みかだったというわけだ。


※ヤマビル 
体長0.2-40cmで多くは淡水に住むが、陸上や海水に住む種類もいる。
肉食性で、主に小動物を食べるもの、大型動物の血を吸っているものなどがある。
長く大型動物にたかって暮らすものは、寄生性と見なされる。哺乳類に対しては、吸血性攻撃対象となる。
このヒルは靴につくとシャクトリムシのように体の上の方に上がって行き、服の隙間(すそ、そで口、靴下と肌の間、靴のひもの合わせ目)等から、もぐりこんで、肌に吸い付く。
かまれてもヒルの唾液に麻酔成分があるため、それほど痛みは無い。


ジョウチュウを体に飼う実験

マイク・リーヒー(Mike Leahy )は寄生生物に魅せられた生物学者だ。
研究熱心な彼は、寄生虫であるジョウチュウを観察する実験のために、自らの体内で育てることを志願した。
実験室では分からないジョウチュウの生態を、人体実験なら観察できるというわけだ。


実験の責任者はフィル・クレイグ教授で、彼はジョウチュウが人体に与える影響を研究している。
マイクはムコウジョウチュウの幼生嚢虫を飲み込んだ。しばらくは特に何の変化もない。
少し痩せたかな?という程度だというマイク。
10週間後、ようやくジョウチュウが自己主張を始めた。3〜4センチほどの片節が6体出てきた。
ちぎれたきしめんのようなひも状の片節だ。



ジョウチュウは雌雄同体で各片節には約5万個の卵が入っている。下界に出た片節は地上を這い回り、中間宿主に食べられようとする。
人糞を肥料に使う畑ならジョウチュウの卵は何ヶ月もの間生存できる。そしてそれを牛が食べ・・・牛の体内では卵は嚢虫となり、肉に侵入する。
牧場によっては6〜7頭の牛が嚢虫に感染していて食肉処理場でそれが発見されない場合もある。そんな肉があなたの食卓に並ぶ可能性も・・・。


グレイグ教授は、十分な加熱が施されていない生焼けの肉は要注意だと言う。
レアステーキを食べる習慣があれば、ムコウジョウチュウに感染する可能性は高いと。
結局、実験は11週間で終了した。マイクが3日後に結婚式を控えていたからだ。
駆虫薬を飲んだマイクが排泄したムコウジョウチュウは実に3メートルにも達していた・・・。


※条虫は、ヒトの小腸に寄生する人体寄生虫の一種。
扁形動物門条虫綱多節条虫亜綱擬葉目裂頭条虫科に属する動物。
いわゆるサナダムシの一種で、体長は5-10mに達する。頭節には一対の吸溝を有し、宿主の腸粘膜に吸着する。
第2中間宿主の生食によって感染するため、魚類を生で食べないようにすることが重要である。
日本では鱒寿司が重要な感染源になっているため、注意を要する。