シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

寧静夏日 QUIET SUMMER

johnfante2010-07-10


『寧静夏日 QUIET SUMMER』(監督:藤田修平/2005年/90分)


侯孝賢ホウ・シャオシェン)の『風櫃の少年』から『恋恋風塵』へと至る青春4部作を、DVDでじっくりと見直している。
今回の発見は『風櫃の少年』で少年たちの出身地として描かれる、台湾島の西方に浮かぶ澎湖諸島と呼ばれる群島である。
台湾は沖縄よりもずっと南方に位置する「南の島」なのだが、実際に訪れてみるまでは、南島として強く意識することはなかった。
しかし、澎湖島の風景は、小さな島々から成ることが理由なのか、何か沖縄や奄美と地続きの風景が見えてくるのだ。


 



侯孝賢の映画を見返しているのは、日本の映画作家が台湾で撮った『寧静夏日 QUIET SUMMER』(05)を見たからである。
大学を卒業したばかりの青年が、若くして亡くなった母親の故郷である台湾の小さな村を訪ねる。
その旅の途中で、語学教師のおじいさん、小さな村で雑貨店を営む親娘、フィリピン人の労働者との出会いがある。
そして悲しい小さな物語が、台湾の静かな夏の風景のなかに浮かび上がる。


日本の映画作家が台湾のクルーと撮ったインディペンデント映画『寧静夏日 QUIET SUMMER』が興味深いのは、異文化と島社会へと人が踏み入っていくときの怖れが、映像に定着されているからであろう。
もの静かな青年は語学学校に通いつつ、母親の故郷を訪ねる旅を続ける。
ここには言語使用の交錯の有り様が示されており、時と場合によって、青年は台湾の人々と英語や標準の中国語で対話を重ねていく。
この青年が積極的に中国の言葉を取得しようとしているところに、台湾人が長らく日本語を使うことを強いられた歴史への静かな応答があるだろう。
それは、侯孝賢の映画のなかで流れる「仰げば尊し」「赤とんぼ」への応答と言ったらいいのか。



もう1つは、寡黙とすら言えるこの映画が、慎重に選びとっている台湾の風景がある。
外国人から見たエキゾティックな台湾の風景は避けられて、日本と台湾の混淆としての風景がさりげなく提出されている。
侯孝賢の『童年往事−時の流れ』のなかで驚くのは、主人公の少年の父親が喀血するときに、日本家屋の畳の上に血を吐いてしまうことだが、『寧静夏日』では、母親の故郷の小さな村に日本家屋が残されている。
『寧静夏日』という寡黙な映画はそれ以上の説明をしないのだが、台湾の田舎と日本家屋が同居する風景は、観る者に何かを雄弁に語りかけてくるのであり、その余白を埋めることは観る者に委ねられているのだ。



『寧静夏日 QUIET SUMMER』
公式サイト
http://quietsummer.com/QuietSummerE.html