シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

『子供の領分|遊山譜』正津勉

johnfante2014-02-14

詩集『子供の領分|遊山譜』(正津勉著、アーツアンドクラフツ刊)


凡庸な形容であるが、この詩人の「円熟期」の「珠玉」の詩集といいたい。
「登山」ではなく「遊山」というのが肝要であろう。山に遊ぶ詩人の目に映える、鳥貝、鹿、冬尺蛾、猪などクセの強い動物たちの、悲しくもユーモラスなあり方。鳥兜、通草、里芋、鬼灯といった植物抄も、この詩人の手にかかると、滑稽な姿ながら愛すべきものに思えてくるから不思議だ。


詩集としての構成も、みごとなまでに音楽的だと言わなくてはならない。
故郷である福井で起きた福井震災の幼年期の記憶から掘り起こし、子供の頃に会った狂人のオジサンの思い出を語り、そして、敦賀半島における産小屋の民俗と、高速増殖炉もんじゅドーム」を対比する箇所には虚をつかれた。


何よりもこの詩集に3、4カ所登場する、亡き母へむけた視線こそが、この詩集の通奏低音になっている。延命措置を断って病床に横たわる母を見舞った日、詩人が見たであろう光景。そして、ふっと頭をよぎった「めくってみよやなあ…」という、自分が生まれでた母の下肢を覗き見してみようという思いつき。
金子光晴山之口獏つげ義春といった書き手たちにつらなる精神を伺わせながら、物がなしさとおかしさが入り交じった「正津節」としか言いようのない、生の「しょうもなさ」を肯定的にうたう味わい深い詩集である。


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