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自伝的作品
自伝的な「スキャナー・ダークリー」は、巻末に麻薬乱用で死んだ友人のリストをかかげた追悼の書である。
近未来、誰にも正体を知らせないおとり捜査官が、麻薬仲間と同居して新薬にふけるうちに、上司に自分自身の監視を命じられて精神が分裂しはじめるという話で、こんな一部の人にしか共感できない小説が、子供の目に触れるアニメになってしまった。
特に、捜査官のスクランブル・スーツは数秒ごとに別人の外貌を映写し識別できなくするもので、映画化は難しいといわれてきた。
R・リンクレイター監督は、実写映像にデジタルペイントする方式でこれを表現し、幻覚症状や現実から乖離するトリップ感を、一般人にもいやというほど味あわせてくれる。
『スキャナー・ダークリー』の予告編(日本版)
映画好き
ディック自身は、‘82年の『ブレードランナー』完成直前に53歳で早世したため、自分の映画をみたことがなかった。が、この映画に多大な期待をよせ、編集前のシーンをみて「やっと自分の人生と創作が正当化される」と喜んだ。
その完成が待ちきれず、晩年の小説「ヴァリス」でSF映画を登場させて映画フリークぶりも披瀝し、この小説内映画を主人公の神秘体験の謎を解く鍵にした。
ディックは映画好きだったが、「SFの真の主人公はアイデアであって人物ではない」という言葉どおり、彼のSF小説が映画人からも愛されてきたのは、そのトリッピーな着想がなぜか映画メディアと相性がよかったからだ。
フィリップ・K・ディックによる原作本
ディックに影響された映画
そういう意味で、‘99年の『マトリックス』は現実と仮想の交錯する、まさにディック的な映画だった。
これ以降、やり尽された感が蔓延し、彼の影響はSFよりも現代劇に多くみられるようになる。
01年の『ドニー・ダーゴ』『バニラ・スカイ』にはSF性が残っていたが、『マシニスト』(‘04)や『バタフライ・エフェクト』(‘05)にいたると、精神のトラウマが現実と夢を媒介し、『ステイ』(‘06)では仮想夢が主人公の救済と癒しとなる。
これらディック的なガジェット(仕かけ)を使ったサスペンスが人気なのは、現代人が生きづらい現実を相対化したいという願望をもっているからだ。
が、それはディックの薬物依存から生まれたアイデアであり、そんな危うい映画が劇場や家でふつうに見られている現代の方こそ、彼が予想しえなかった未来世紀なのかもしれない。
ディック原作の映画
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短編「変種第二号」を忠実に映画化したB級好篇。
監督 /クリスチャン・デュゲイ 出演/ピーター・ウェラー他
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監督/ゲイリー・フレダー 出演/ゲイリー・シニーズ他
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ディックの原作をスピルバーグはヒッチコック風サスペンスに仕立てた。
監督/スティーブン・スピルバーグ 出演/トム・クルーズ他
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監督 /ジョン・ウー 出演/ユマ・サーマン他
- 作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,浅倉久志
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初出:「週刊SPA!」