- 作者: 中島義道
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/11/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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『働くことがイヤな人のための本』や『人生を半分降りる』などベストセラーにもなった著書で、社会からドロップアウトするのもひとつの生き方だと肯定してみせた、戦う哲学者の中島義道。
では、仕事や会社をやめたあとに残される「本当の私とはいったい何だろう」という、より根本的な問いに、本書では「哲学的に」答えようとしている。
切り口はいたってシンプルだ。日本語で「いま私は夢を見ている」と語ることは不合理なのに、「さっき私は夢を見ていた」と語るのは自然なことだ。
過去形を使い、過去を現在につなぐものとして私はあるのだ。これを「想起すること」と呼んでいる。
著者は、カントやハイデガーなど高名な哲学者をやりだまに上げ「想起すること」を前提にしていないので、彼らの議論は「難解きわまる無駄話」にすぎないと、次々と気持ちよく切り捨てていく。
なぜなら自我論は時間論ぬきには考えられず、彼らの問題の立て方では、しまいには私というものを魂や肉体、脳や心のうちに求めるしかなくなってしまうからだ。
講談社選書メチエなので、難易度は新書と専門書の中間くらい。
大学の教養課程レベルの本で哲学の議論をおしすすめるという、離れ技に近いものがこの本では試みられている。
中島氏の教えどおり、仕事をやめて「半隠遁生活」に入ってもいいというディープな読者なら、『時間を哲学する』や『カントの時間論』などの同系書に進むのもいいであろう。
初出:Amazon.co.jp