シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

哀しみを語りつぐ日本人

johnfante2007-09-25

「哀しみ」を語りつぐ日本人


『哀しみを語りつぐ日本人』山折哲雄齋藤孝


このふたりの対談ほどしっくりくる組み合わせもない。
『悲しみの精神史』で歌人や作家を論じて、日本人に通底する感情をあぶりだした山折哲雄
『声に出して読みたい日本語』で、声や身体を使って美しい日本語を身につけることを説いた齋藤孝
そんなふたりが浪花節からJポップ、薪能からハリーポッターまで、さまざまな話題を駆使しながら日本的感情の回復について話し合う。


若い人を中心に「むかつく」「キレる」「肩が触れ合っただけで殺し合う」など極端な行為が目立っている。
山折から見れば、もともと身体の接触が苦手な日本人は独りで哀しみを自分のなかに貯めこみやすいのだという。
だから、昔から啖呵を切ったり浪曲で声を絞ったり、言葉の表現で感情を放出して精神を落ち着かせてきた。
だが、現代人にはそういったガス抜きができていないのだと。


悲しみの精神史


日本語のリズム


一方で、齋藤は、日本人の声や身体にガス抜きの可能性を見いだす。
日本語には多彩な方言や七五調など独特のリズムがあり、呼吸を大切にする文化だ。
伝統的な朗誦や丹田呼吸を使えば、ヨガのように心が落ち着く効果があるのだという。
新旧世代が互いの考えを補いあいながら、鮮明に描きだそうとするのは現代人が抱える問題の在り処だ。


何よりもまず「言葉があることで、心に形が与えられる」のだから、言葉が貧困化し、「哀しみ」に代表されるような微細な感情が失われている事態こそが憂慮されるべきだという。
では、どうしたら日本人は言葉と情緒を取りもどすことができるのか、やわらかい口調で語られるふたりの対話に耳を澄ませてみてほしい。


初出:Amazon.co.jp