マキノ雅弘と日本侠客伝 ②
- 作者: 山田宏一
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ヤクザ映画は「がまん劇」
墨を入れるときの痛みから、刺青のことを隠語で「がまん」という。
『日本侠客伝』は利権争いのドラマで、新興暴力団の非道に対して、昔気質の一家がじっと忍耐した末に斬りこみにいく「がまん劇」だ。
「忠臣蔵」のパターンを踏襲しており、殺陣も時代劇でならしたマキノ雅弘の独壇場である。
時代的にも千恵蔵や綿之助ら時代劇スターの人気が翳り、東映が鶴田浩二や高倉健ら低迷していたスターを起用しだした頃で大ヒットに繋がった。
刺青の文様や博奕の作法などマニアな世界になじめない一般観客も、時代劇で見なれたマキノ演出の義理と人情の劇ならば楽しめた。そこが現代のヤクザ映画との違いだ。
『昭和残侠伝』における池辺良の「仁義」の切り方
時代劇としての良さ
また、大正・昭和初期という時代設定は80年以上前であり、製作当時には近現代であっても今では歴史の一部といえる。
震災後に日本橋から築地に移った魚河岸、浅草の興行主、神田の火消しなど、時代物ならではの登場人物が勇躍し、歴史好きの心をくすぐる。
40年の時を経て任侠映画も時代劇となり、より多くのファン層に受け入れられる機が熟してきた。
歌舞伎を映画へ移植した父・省三のように、マキノ雅弘は『関東緋桜一家』を最後に、映画の技芸と共にテレビ界に転身し、70年代以降のテレビ時代劇の黄金期の礎を築いた。
『水戸黄門』『子連れ狼』のごとく、任侠映画が時代劇として新スタンダードを作る日が来るかもしれない。
マキノ雅弘の作品
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マキノ雅弘がメガホンを取ったシリーズ第4弾。映画と関係ないが、雅弘の息子のマキノ 正幸は安室奈美恵、SPEED、知念里奈を輩出した沖縄アクターズスクールの校長である。
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『日本侠客伝』でもレギュラーを務めた長門裕之は、『太陽の季節』の人気女優・南田洋子と結婚。父は沢村国太郎、母は沢村貞子、叔父が加東大介という役者一家である。
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高倉健が悪の親玉を斬るときに「健ちゃん、やっちまえ!」と客席から声援が飛んだシリーズだが、マキノ雅弘は男女の愛を軸に静謐な人情劇に仕上げた。文句なしの最高傑作。
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本作に登場する天津敏は、『日本侠客伝』シリーズを通して悪役を一手にになう最重要人物。ひと目で仇敵とわかる容貌、ドスの利いた声、鋭い眼光にアマツ萌え間違いなしだ。
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『関東緋桜一家』は『日本侠客伝』全作を企画した俊藤浩滋の娘・藤純子の引退映画。彼女の芸名をつけたのはマキノ雅弘だ。
その藤純子(寺島しのぶの母)の引退記念作であったが、マキノ雅弘も本作を最後に映画監督業を去る。翌73年に、実録路線の『仁義なき戦い』が公開されていることも象徴的。
初出:「週刊SPA!」
(金子遊)