シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

『リズム・サイエンス』

johnfante2009-02-22

リズム・サイエンス

リズム・サイエンス


DJスプーキーこと、ポール・D・ミラーの国内初めての著書についてです。

DJ Spooky


DJスプーキーこと、ポール・D・ミラーの著書『リズム・サイエンス』が刊行された。
ミラーは1970年生まれ、ワシントンDC出身のアフリカ系アメリカ人
本書の「地域」という自伝的なエッセイによれば、父親は大学法学部の学部長をしており、大学では哲学とフランス文学を専攻し、フォイエルバッハワーグナーに関する卒業論文を書いたという、異色の経歴を持つDJである。


自分を「完全に電子化された環境で育ったおそらく最初の世代」と定義するポール・D・ミラーは、ニューヨークでの修業時代を経て、98年にアルバム『リディム・ウォーフェア』でメジャーデビュー。
それ以降、ヒップホップのリズムにダブからジャズ、現代音楽からメタルまでジャンル越境的な音楽をサンプリングし、環境音を多用することで、都市のランドスケープや現代のテクノロジーを反映する文明批評的なエレクトロニック・ミュージックを構築してきた。


Riddim Warfare

DJ文化とライティング


ミラーはキャリアの最初期から、自身のことをDJであると同時に「ライター」として位置づけてきた。
「インプット、アウトプット、シーケンスはタイト。ループは延々絶え間なく。きみの腕から発揮して、ディーラーが何を持ってるか見極めろ。あとはリミックスさ。意味を紐解き、断片を取り出せ」というグルーヴ感のある文章は、まさにフリースタイルのDJミュージックのようだ。
たしかにミラーがいうように、サンプリングをしながらDJをすることは、引用をしながら書くことに似ている。



訳者の上野俊哉が指摘するように、DJ文化に耽溺する者には、実験的な文学やSFのファンが多い。ミラーも例外ではないようだ。
「ぼくがDJをするようになったとき、ぼくを取り巻くもの――先進国の資本主義を地盤にしたメディアの濃密なスペクトル――は、ぼくの憧れや欲望の非常に多くをすでにぼくのために築いてしまっているみたいに思えた。つまり、ぼくは自分の神経が映像やサウンドや他の人々といった全てに拡張されているような気分がした」という。
引用とコラージュによって音響彫刻をつくるDJという存在は、現代のシステムへ過剰に露出されるSF文学の人物たちと親和性があるのだろう。
『リズム・サイエンス』はミュージック・シーンを通じて構築されつつある公共性と、来るべき社会における実存の形態を考える上でも興味深い著書である。(CD付録つき)


Creation Rebel


In Fine Style: DJ Spooky - 50,000 Volts of Trojan