シネマの舞台裏2

Yu kaneko(批評家・映像作家)のブログ

『Lettre de Sibérie 』 クリス・マルケル

johnfante2010-05-14


『Lettre de Sibérie』(1958)


ずっと観たかったクリス・マルケルの『シベリアからの手紙』(未ソフト化)をようやく観ることが出来た。
海外版DVDの発売が進んでおり、クリス・マルケルの映画が大分観られるようになってきた。
youtubeにも、マルケルの短編映画が随分とアップされてきている。
撮影はサッシャ・ヴィエルニ、プロダクションはアナトール・ドーマンのArogos Films。


クリス・マルケルはドキュメンタリー作家のように言われることが多いが、『シベリアからの手紙』は最初期のフィルム・エッセイである。
1957年8月、スターリンの死後4年に、マルケルは数人の友人と共にシベリアの地を訪れる。
「私は遠い国からこの手紙を君に書いている」という有名な1行で、マルケル特有のコメンタリーがはじまる。
記録映像はソビエト連邦の文化史を追って行くのだが、ドキュメンタリーの枠からはみ出す要素が興味深い。
コメンタリーが時には映像を相対化し、時には映像同士をぶつけ合うような役割を果たしている。



特徴的なのは、映画全体において3箇所、差し挟まれるアニメーションであろう。
ふいに上記のようなマンモスのアニメーションが入り、一人称でコメンタリーを入れていたナレーターがテンポ良く歌をうたいだす。


マンモス、シベリアのマンモス
パリで冬を過ごすことをただ夢見るだけ
皇帝の勅命と鞭打ち刑を感じながら
多くは途中でどこかへ行ってしまった


当時、シベリアで氷づけのまま、完全な形で保存されていたマンモスが発見されて話題となった。
そのマンモスをアニメーションによって再現し、それをスターリン政権下で抑圧されていた民衆の姿に重ねあわせるのだ。
現在のドキュメンタリーは対象へ土足で踏み入り、強烈な映像によってそれを暴露するという品のない方向へ傾いている。
そんな中で、対象との適切な距離を測りながら、エッセンスを抽出するフィルム・エッセイはもっと省みられても良いだろう。