- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2006/07/14
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ロバート・ワイズ監督が91歳で亡くなった(2005年9月)。
60年代にテレビ時代がきて低迷していたハリウッドで、重量感のある『ウエスト・サイド物語』『サウンド・オブ・ミュージック』などのミュージカル映画を作り大ヒットさせた。
編集マンの出身でジャンルにこだわらず、西部劇、戦争ドラマ、パニック映画、ラブロマンスまで撮りまくった。
だが、彼がリアリストとして異彩を放ったホラーやSFの古典はあまり知られていないようだ。
意外なことに、ワイズの経歴はRKO社制作の『キャット・ピープルの呪い』や『死体を売る男』といったB級の怪奇映画から始まった。
40年代の怪奇映画は血みどろのスプラッターが全盛の現代とは違い、カット割りと音響効果で不気味さと怪しさを匂わせる。
その伝統から彼の『たたり』『オードリー・ローズ』などオカルト色の強いサイコホラーは生まれた。
幽霊屋敷ものの『たたり』では特殊撮影を一切使わず、超常現象が主人公の幻覚か、人間の仕業か、呪いなのか分らないところに観客を宙吊りにする。
霊体は不可視だというリアリズムを貫いて、演出だけで背筋がゾッとする恐怖感をかもしている。
また『地球の静止する日』は特殊メイクや効果に頼らないSF映画である。
宇宙人=侵略者だった50年代に、非核化を呼びかけるためにやってくる円盤の設定が独創的で、人間そっくりの宇宙人が世界の首脳を集めるべく奔走する現実的なドラマに、冷戦期の人々は共感した。
『アンドロメダ…』では宇宙人や宇宙船すら登場しない。ワイズが「この映画のスターはセットだ」と発言したように、映画の大半は、宇宙からきた病原体の正体をさぐる研究所内での生化学実験シーンである。
SFにドキュメンタリーの要素を吹きこむことに成功したが、リアルさを追求した結果、非常にマニアックな内容の映画となった。
なぜこんな異才が長年ハリウッドのど真ん中にいられたのか。
米の映画会社は歯切れのいいテンポを重んじるため、作家主義に偏りがちな監督と同等の権限を編集マンに与えている。
会社と監督が編集権をめぐって対立し、後年にディレクターズ・カットが作られるのはそのためだ。
会社の要求通り何でも撮るかわりに、監督と編集の両方を押えることを選んだワイズは実人生においてもリアリストであったに違いない。
初出 : 週刊SPA!